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三上黒鴇
4P
しおりを挟む黒鷹は静かに首を横に振る。知るはずがない。元々、小紅が先に忍び込んでまさか白鴇の用心棒になっているなんて知らなかったんだ。
黒鷹も白鴇も騙し思い通りに事が進んでいるのは、念入りに計画を練った小紅。
けれどこれは危険な賭けだった。白鴇と戦い、彼を興奮させることによって用心棒契約の条件を薄めさせる。今回は思惑どおり忘れていたが、しっかり覚えていればもしかすればもっと警戒されていたかもしれない。
黒鷹も、喉元に短刀を突きつけられても気にせず突っ込んでいたかもしれない。
小紅の計画通りに上手くいったのは、黒鷹が彼女を信じているからというのもある。
短刀を突きつけられている間に彼女の考えを読んだのかもしれない。けれど何より、このわずかな時間で2人の心が再び通い合った。
「そう、僕の奥さんはとっても怖い人なんだよ。でも、心から信頼しているからこそ背を預けられる。たとえ、背後から短刀を突きつけられていてもね」
小紅は、素直に黒鷹に頭を撫でられた。毎日、顔を合わすたびに撫でられていたから数日会わなかっただけで懐かしい感じがする。
それでいちいち小紅が赤面するものだから、白鴇は「あーあぁ」と溜め息。
「2対1なんて卑怯だと思わない?兄さんは元々強いし赤い人もそこそこできるし…………でもまぁ、僕はもっと強いけどね……!」
「くっ!その雰囲気、昔とは比べ物にならないくらい全然違う。並大抵の努力じゃないね。でも、紅ちゃんには指1本触れさせない。って、あれ?紅ちゃん?」
イライラし始めた白鴇が小紅に狙いを定め、斬りかかってきた。が、すぐさま黒鷹が前に出て和鷹の刀で受け止めた。
本能的に。あと、小紅に格好いいところを見せたかった?けれど彼女は短刀を鞘にしまい、1歩また1歩と下がる。
「私は一切の手出しも口出しも致しません。どうぞご存分に。だってこれは…………ただの、兄弟喧嘩でしょう?」
見上げた度胸か、ただの空気を読めない残念な人か。2人から言葉を奪った小紅は唯一の出入り口の前に立って傍観態勢。
見ろ、2人とも「いや、まぁそうだけど」と顔に書いて固まっているじゃないか。
確かに小紅が言うように、広い心で見れば兄弟喧嘩だろう。ちょっと、いやかなり度が過ぎる気もするが。
これが冗談でもふざけているわけでもなく本気だというのが、小紅がたまに天然だと言われる由縁か。何にせよ、彼女は「続きをどうぞ」と促し頭を下げる。
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