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三上黒鴇
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しおりを挟む昨日だ。小紅がこの場所、ぐっすり眠っている白鴇の枕元に現れて脅迫半分に雇ってもらったのは。
その際、小紅が黒鷹の妻だと知って白鴇は条件反射で襲いかかったのは言うまでもない。人質にと遊び半分に刀を抜いた白鴇は、彼女に軽傷を負わせることしかできなかった。
もとより忍のような小紅だ。雇ってもらえるように実力を見せておく必要があった。
だから攻撃を見切ってかわし、適度に当たらないように反撃をする。そのはずだったのに。白鴇の実力は小紅の想定をはるかに超えていた。
ついさっきまで熟睡していたはずなのに薄い灰色の瞳は爛々と、獲物を狩る獣のように輝いていて。とても楽しそうに小紅を壁際まで追いやる。
黒鷹の話によれば、白鴇の実力は彼よりも劣っていたはず。けれど実際は黒鷹と同等か、それ以上。
踏み込むと同時に繰り出される刀は目で追えないほど速く、小紅の手を斬りつけた。容赦なく、斬りつけた手を蹴りつける。
その直後に突き出された刀が小紅の耳を掠り、壁に突き刺さる。逃げ場がない。
ほとんど反撃できなかった。それに、これでも彼は本気を出していない。だって彼は「もう終わり?」と、つまらなそうに溜め息を吐いた。
それでも「まぁいいや。面白そうだし、好きにするといいよ。ただし、妙な動きを見せれば即刻その首をはねてあげるから」と笑った。
まるで、黒鷹と初めて出会った時のようだと小紅は思った。いや、黒鷹よりも嫌な感じがした。確かな恐怖。
「今の黒鷹様では私を倒すことなどできません」
「まさか、紅ちゃんに命をつかまれるとは思わなかったなぁ。そうまでして僕を止めてくれようとするのは嬉しいけど」
小紅が黒鷹を斬ることなどできないと思っているのか。刀から手を離そうとしない。
「闇に溶けた私の心を救い出してくれたのは黒鷹様でした。けれど、あなたまで闇に染まる必要はありません」
「それは僕に弟を、人殺しをさせないために言ってる?あいにくだけど、僕はもう何人も殺しちゃってるんだ。とっくに闇に骨まで浸かってるよ」
黒鷹は子供の頃に両親と、立ちはだかった大人達を何人も手にかけた。長年、罪を背負い続けている。
返す言葉もない小紅の代わりに、白鴇が1歩踏み出した。黒鷹が握る刀に顔を近づけて、眺める。
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