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三上黒鴇
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しおりを挟む――某日。真夜中、日付が変わった頃。黒鷹は計画どおりに三上城に侵入、家臣達に見つかることもなく最上階、白鴇が眠る部屋に辿りついた。
結論から言うと、白鴇は眠ってなどおらず刀を手に待ち構えていた。
「やぁ兄さん、やっと顔を見せてくれたね。楽しみに待ってたよ。こんな時間に来るなんて、ずっと待ってたから眠くて眠くて、ふあぁぁぁ……」
鞘も柄も真っ白い刀をブラブラさせ、心底嬉しそうに笑いかける白鴇。
余裕だ。眠いのは本当らしく、大きなあくびを2回して目を擦っている。薄い灰色の瞳が映すのは刀を構えたまま動けないでいる黒鷹と、その背後に立っているもう1人の姿。
白鴇を見つけたと同時に一太刀浴びせようと1歩踏み出したまま、喉元に突き付けられた短刀のせいで身動きが取れない。
心臓がバクバク警鐘を鳴らして、こめかみを冷たい汗が流れる。それは“無”だった。
背後を取り短刀を突きつける者の気配がない。姿を現したのにも、まったく気づけなかった。決して、油断していたわけでもないのに。
彼女はこういうことには優れている。恐いはずだ。けれど、愛する者の喉元にピタリと突きつけている短刀を握る手は、一切震えていない。
「優秀な用心棒を雇って良かったよ。いきなり枕元に現れて、兄さんが来るから守らせてほしいだなんてびっくりして、見てた夢の内容もすっかり飛んで行っちゃったんだけど」
「何で……優秀な用心棒?そうか、寝返ったってわけかい、紅ちゃん?」
「寝返るも何も、鷹の翼はもう解散したのです。その後どうするのかは私の勝手。けれど、私と黒鷹様の夫婦というつながりは断ち切られていませんから。こちら側に来れば再びお会いできると思ったまでです」
最後に「私と戦いますか?」と添えたのは、やっぱり諦めが悪かった小紅。
右手で短刀を握り、空いている左手で黒鷹の背中に触れる。また痩せた?「おやめください」と、悲しげに溜め息を吐いた。
黒鷹は必ず白鴇の前に姿を現す。必ず阻止する。しかし、どうやって?
考え抜いた結果、小紅はある条件付きで白鴇の用心棒となって待ち構えることにした。兄への憎しみに溺れる白鴇に、危うく殺されかけたが。
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