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広い屋敷、静かな家
5P
しおりを挟む夜鷹を掘り起こす気か。勢いよく、けれど優しく丁寧に土を掻き出していく。夜鷹を傷つけないようたっぷり時間をかけて、着物が土まみれになるのも気にせず。
黙々と作業を続けて全体を掘り起こすと、大きな布で包み込んでそっと慎重に、壊れないように夜鷹を抱え来た道を戻る。
何度も頭をぶつけた。腕に大量の骨を抱えているんだ、床下を通るなんて無茶すぎる。でも、なんとかコブを作りながら出て屋敷の裏へ。
あらかじめ掘っていた偽の墓に夜鷹を埋め直し、花を手向ける。
「引っ越し完了。これで和と一緒だよ。よかったね、和。生前は夜鷹さんと2人でいる時間が少なかったもんね」
和鷹は生前言っていた、自分と和鷹の間にはいつも黒鷹がいたと。夜鷹のそばには必ず黒鷹がいたから、和鷹と夜鷹が2人きりで過ごす時間は極めて短かった。
罪滅ぼしにはならないかもしれない。でも、せめて死後の世界では2人一緒にと、黒鷹はそう願った。
「僕ももうすぐそっちの世界にすぐに行くけど、邪魔しないから心配しないで。僕は白と一緒に地獄へ落ちるから。白と和とでは喧嘩が勃発しちゃうだろうしね」
なぜ笑えるのだろう?もうすぐ死ぬその時のためにすべてを終わらせる準備をしているというのに、この世から消え去ってしまおうとしているのに、どうして笑える?
1人になって狂ってしまったか。そうかもしれない。
だって、和鷹の墓にも血を捧げた。和鷹の刀でもう1度、さっきと同じ場所を切りつけて血を流した。深く切れてしまったのに、痛くない。
傷の痛みも、仲間や愛する妻を追い出してしまった罪悪感も、寂しさも悲しみも、もう何も感じない。
考えているのは、これからのこと。1人で三上城に侵入し、白鴇を見つける。城内の仕組みがどうなっているのかは、何年も昔のことだがはっきりと覚えている。
今夜か、明日か。作戦も何も考えていないのは黒鷹らしくない。正面から正々堂々と行くつもりだ。
いつも仕事の時に緻密な作戦を考えていたのは、仲間を守るため。今度は守るべき仲間がいない、黒鷹ただ1人だけなのだから、死にに行くのだから守りは考えない。
それに、相手は双子の弟の白鴇だ。血がつながった本物の兄弟、半身ともいえる弟だからこそ。
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