鷹の翼

覚悟の盃

５P

「お前は甘い」

「それ、きっと色んな意味が込められた言葉なんだろうね。あーあ、夜鷹さんとの喧嘩の発端を明かしてくれると思ったのに、期待外れだよ」

「そう簡単には教えん。黒鷹が生きて帰ってくれば、教えてやっても良いぞ？」

　近藤は黒鷹を生かそうとしている。なぜそこまでして目をかけるのか？夜鷹と近藤との間で交わされた約束を知らない黒鷹にはわからない。

　だから最後に「…………酷いね」と、振り向くことなく呟いて夜鷹の家をあとにした。

「のう、夜鷹。あの子は大きくなったな。だが、代わりに多くのものを失い終わろうとしておる。お前の案じていた通りになるやもしれんな……」

　宵闇に溶けていく黒鷹の背中を見つめ、近藤は姿が見えなくなると刀を手に外へと１歩踏み出す。ハタと足を止め、振り返った。

「いや、もしかすると……」

　近藤が見上げた先、家から影が飛び出した。近藤を軽々と飛び越して地面に降り立ち一旦立ち止まるが、振り返りそうになってまたすぐに跳び出す。

　影は、もう見えなくなった彼のあとを追うように宵闇に体を溶かした。

　近藤は口元に笑みを浮かべ、それ以上の言葉を紡ぐことなく夜鷹の家に背を向けると大きな体を闇に沈めていった。