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覚悟の盃
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しおりを挟む白鴇に会いに行って死ぬにしても、病に侵されて最期を迎えるにしても、妻である小紅は残される者。
彼女のことを本当に愛しているのなら、もっと考えてやれということだろう。下心も、多少は含まれているんだろうが。
「はぁ、もう調子狂うなぁ。まぁ、紅ちゃんには悪いけど子供は作らないよ。だって…………僕と同じになってほしくないもん」
咳き込んで吐血していたのを見てなかったのか?まだ飲めと言うのか?盃を返そうと差し出す近藤に、黒鷹は飽きれつつそう呟いた。
病気は受け継がれる。黒鷹は祖母が同じ病だったため、自分の子供にも影響が出るのではないかと恐れている。
その病の辛さを、恐ろしさを身をもって理解しているから。愛する人との間にできる子供に、同じ思いをしてほしくない。
悔しそうに、寂しそうに呟いた黒鷹。ジッと見つめていた近藤は笑顔をフッと消して、急に怖い顔になった。
「わしの大事な娘を悲しませるな」
本気で怒って、本気で大きな拳でブン殴った。本気だから、黒鷹の細い体は床を転がって壁にドンッ!と勢いよく打ち付けられる。
息が詰まり、肺に残っていた微量の血が口から飛び出した。いきなり何しやがるんだ、とでも言いたげにキッと睨みつける黒鷹。
床にうずくまり殺意のこもった目を向ける彼を、冷たく見下ろす近藤。
「お前なら、残される者の苦しみがわかると思っていたんだがな。お前では小紅ちゃんを本当の意味で幸せにはできまい」
「なっ、どういう意味だよ!?僕だって、僕なりに真剣に考えて決めたんだ!子供は苦手だけど、でも、紅ちゃんとの子供ならそりゃあ欲しいに決まってるだろ……っ」
再び大きな拳を振り上げたが、黒鷹が本音を呟いたことによって打ち下ろされることなくゆっくり下げられた。
本音が聞けて安堵したのか、少しだけホッと表情が和らぎ、不意に黄色い視線が天井に向けられる。が、すぐに黒鷹へと戻る。
「これ以上は話の無駄だな。黒鷹の覚悟はよくわかった。だが、最後にひとこと言わせてもらおう」
黒鷹が自力で立ち上がり、脇に置いていた刀を帯刀。イライラモヤモヤを抱えたまま先に家を出ようとしたところで、ピタリと足を止めた。
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