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覚悟の盃
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しおりを挟むある日の夜。布団を共にする小紅が完全に寝落ちたのを確認した黒鷹は、1人で屋敷を出てとある場所に来ていた。
「ほんと、あんたってすごいよ。僕なんかの文を信じてのこのこ1人でやってくるなんてさ。それによくこの場所がわかったよね」
「わしも伊達に歳はとっとらん。お前が何を考え、なぜわしを呼んだのかくらいはわかる。それにこの場所は、わしとお前にとって思い出深い場所だからな」
「うわ、僕の考えがわかるなんて気持ち悪い。ここは、僕達が密会するにはちょうどいい場所でしょ?ねぇ…………新選組局長、近藤勇?」
「10も年上なのだから呼び捨てはやめなさいと毎回言うておるのに、クソガキだな…………鷹の翼頭領、魅堂黒鷹?」
双方、口元に笑みを浮かべながら、しかし目はお互いをきつく睨みつけている。
ここは夜鷹が生前、鷹の翼を結成する前まで暮らしていた家。もう誰も使っていなくてボロボロだが、近藤が取り壊さないように置いていた。
ここで、夜鷹の最期を看取った。
黒鷹と近藤の2人だけで、夜鷹が息を引き取る様を見届けた。それが夜鷹の最後の願いだったから。
夜鷹がどんな生まれで元々はどんな人物だったのか、彼の過去は黒鷹や近藤や千歳ですら知らない。ただ、悪を決して許さない正義の男だった。悪戯は大好きだったが。
部屋の中央にある囲炉裏を挟んで向かい合うように座っている2人はお互いの盃に酒を酌むと、自分の盃を持って相手の盃に触れさせる。
「直談判に行く気か?」
近藤の盃になみなみ一杯の酒は一息に飲み干され、けれど黒鷹も飲み干した酒は盃にわずかだけ。彼が酒を飲めないことを、近藤は知っている。
空になった盃を下ろし、同時に「ふう」と一息つくとまた酒を注ぐ。
「ずっと、目を背け続けてきちゃったからね。今さら、話し合いで何とかなるとは思ってないよ。でも、白が僕を呼んでるから」
「お前ならば白鴇殿くらい……いや、実の弟だからこそとどめを刺せぬとわかっていて行くのか。仲間達はどうする?どうやってもお前についていくと言うだろう?特に紅、小紅ちゃんは――」
「これは僕個人、三上黒鴇の問題だ。鷹の翼は関係ない」
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