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約束
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しおりを挟むその様子を横目で見ていた黒鷹、機嫌が悪い。小紅の手を握ったまま早足に屋敷の裏に回ると、振り向いた。
「僕の前で桜鬼や高遠の心配をしないでよ」
「え?でも、大事な仲間です。大けがを負って、仕事の際に不具合があってはいけないでしょう?桜鬼さんはもう私のことを諦めていますから、大丈夫ですよ?」
「それでも、嫌なんだよ。醜い嫉妬だってわかってる。自分でもビックリしてるし、馬鹿馬鹿しいって思ってる。でも、ここが掻き乱される」
振り向いた黒鷹は握っていた小紅の手を自分の胸に触れさせ、仏頂面。ドクンッドクンッと力強い鼓動は焦りでいつもより早い。
まるで言い訳をする子供のように口をとがらせる黒鷹に、小紅はつい「クスッ」と笑みをこぼした。
「可愛らしい嫉妬ですね、嬉しいですよ。今度から気をつけますが、黒鷹様も我慢なさってください。皆、大切な家族でしょう?」
頬を赤く染める黒鷹は眉間に深いシワを刻みながらも渋々「はーい」と小さく返事し、また小紅の手を引く。
もう尻に敷かれている?どうにも、小紅には逆らえないのだ、黒鷹は。だから「はーい」と返事をした後でも「うぅーん」と、不服そうに呻く。
ここは屋敷の裏、和鷹の墓がある場所だ。墓の前に腰を下ろし、和鷹の頭を撫でるように墓石を優しく撫でると立ち上がって小紅に手を差し出す。
「短刀、貸して?」
こんなところで短刀なんて、一体何をするのだろうと首をかしげながらも素直に差し出す小紅。
「これ、夜鷹さんの刀と同じ銘の短刀だね。つい最近気づいたんだ。大事な形見だね。僕が持ってるこれ、夜鷹さんから死に際に譲り受けたんだよ」
鞘を眺め、鞘から出して刀身を隅々まで眺める黒鷹は自分の腰に差してある刀を指さした。
なるほど、確かに黒鷹の刀も小紅の短刀も同じ人が打った作のようで全体的な作りから刃紋が同じ。よく気づいたな。
けれど、この話はついでだったようだ。黒鷹は短刀を手に墓前にしゃがみこむと、一旦短刀を置いて手を上げた。
頭の上に手を回し、髪をほどいた。淡い黒の髪が肩甲骨のあたりまで下ろされる。
「約束、ついに果たせなくなってごめんね。代わりと言っちゃあなんだけど、この結い紐をあげるよ。まったく、何でこんなものが欲しいんだろうね」
ほどいた結い紐を眺め、苦笑しながら墓前に供える。黒鷹が顔を上げ、小紅もつられて顔を上げると不思議な光景が見えた。
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