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約束
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しおりを挟むいつの間に抜いていたのか。カチンッと刀を鞘にしまった夜鷹が雪を抱いたまま背を向けると、先生の両腕がボトリと落ちた。先生の両目から血しぶきが舞う。
一瞬で、目に見えないほど素早く両腕を斬り落とした刀を横に薙いで両目から光を奪ってみせた。
「それから夜鷹様は、俺っちに“普通”の暮らしを教えてくれた。時々、夜中に信者が襲ってきても夜鷹様や頭領や和鷹さんが追い払うてくれた」
両腕と光を失い絶望に心を閉じてしまった哀れな男は新選組に捕らえられ、療養したのち今もなお冷たく暗い牢の中にいる。
「夜鷹様に出会うたんは運命や思うとる。鷹の翼に入って鳶に出会うて、好きになって、夫婦になって。今、ものすっっっっっごい幸せやもん」
そう言って、雪は最高の笑顔を見せた。ほんのり頬が赤い。
「こんな、全然普通の女の子やない俺っちを『綺麗』やって言うてくれるんや。髪だけやない、この“雪”を全部好きやって言うてくれる。今ならこの気持ち、小紅ちゃんもわかるやろ?」
雪が性格的にも言動的にも男っぽいのは、彼女がただそうしたいからそうしているだけ。
夜鷹に救われるまでは大人しい、されるがままの人形のような女の子だったらしいが。“人間”を取り戻してからは女らしくいることに違和感を覚え、今の“雪”が出来上がった。
雪は雪らしく、たまに力加減が出来なくて物を壊してしまうが。それでも夜鷹に“雪”を解放してもらった。
鳶と出会ってからは、彼の気持ちに気付いても彼がなかなか言葉にして伝えてくれないのがもどかしいと思っていた。彼の気持ちに気付いたのと同時に、自分も彼のことが気になるのだと気づいたから。
夜鷹を慕うのとは全然違う気持ち。鳶を愛している自分に驚いた。
黒鷹の手助けもあってようやく夫婦になった雪と鳶。モヤモヤしたもどかしさがなくなって、幸せで満たされる。
小紅にもよくわかる。小紅の場合、寝返って敵の頭と想い合って夫婦になってしまったのだが。愛に立場は関係ない。
お互い、自分の想いに気付いても立場を気にして結ばれないよう避けてきたが、夫婦になってしまえば楽になった。幸せと、自由を手に入れた。
「そう、ですね。黒鷹様は自分を産んだご両親を恨んでいますが、私は感謝しています」
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