鷹の翼

約束

１P

　数日後、黒鷹と小紅は鷹の翼の皆と勝手に来ていた千歳の前で夫婦の契りを交わした。

　祝言の時に、皆にも黒鷹が結核を患っていることも打ち明けた。千歳以外が驚いた。かと思いきや、意外や意外、高遠は唇を噛みしめて「知ってた」と言った。

　小紅がここに来るよりももっと前、千歳が黒鷹に薬を持ってきていた時の会話を偶然聞いてしまったんだと。

　鷹の翼の長として皆に心配をかけたくないから黙っている。そう決めたバカな黒鷹を守るために、高遠は一刻も早く強くなろうとしていた。

　牢で小紅と話をした時、言葉を濁したのは高遠も黒鷹の決意を尊重して病のことを隠そうとしたからか。

　改めて「俺様が頭領を守ってやるんだ！」と宣言した高遠は今、庭で小紅と対峙している。

「牢を出たら手合わせをするって約束、まだ果たしていませんでしたからね。女だからって手加減しなくてもいいですよ、高遠さん」

「頭領の、おっ、おぉ、お、お、奥方になったからって偉そうにすんな！はなっから手加減なんざぁする気ねぇよ、いくぞおらぁっ！！」

　そういえば牢に入れられている時、小紅が牢から出られたら手合わせをすると約束していた。

　刃を上に向けた刀を振りかぶり、高遠が襲いかかる。対する小紅は愛用の短刀を、同じく刃を上に向けて構え迎え撃つ。

　縁側には、初めてまともに小紅が戦う姿が見られると黒鷹、桜鬼、猫丸、鳶、雪が見物に来ている。勢ぞろいだな。

　皆、口々に「紅ちゃん頑張れ」とか「小紅ちゃん頑張ってなー！」とか、声援を送る。高遠を応援する者は誰１人いない。

　これでも小紅は新選組の隠れた一員として鍛えられてきた。だから、高遠の大雑把な一振りを見切って体をひねりかわすと短刀の柄で彼の背中を打った。

　息を詰まらせた高遠が振り返りながら蹴りを繰り出すも、そこに小紅の姿はない。

　動きを読んでいた小紅はすでに背後に回っていて、後ろからピタッと彼の首筋に短刀の峰を当てた。お得意の、音も気配も消した御業。

「私の勝ちです。舐めてるんですか？動きが荒くて、攻撃も軸足もブレているし力み過ぎて遅いです」

　あっという間に終わった。事実、小紅の腕前がどれほどなのかわからないので試すために手加減していたのだろう。それにしても、速かった。