鷹の翼

那月

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想い

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「具合が悪いのなら最初におっしゃってください」

「ごめんね。全てを話すなら今しかないって思ったんだ。あぁ……おかしい、なぁ…………なんだか急に息が、苦しく、て……っ」

 横になると黒鷹の額に、玉のような汗が浮かんだ。顔色も一気に悪くなって背を向ける。

 胸を押さえているのか、背中を曲げて苦しそうに荒い息を吐く。熱でも急激に上がったのか?しかし、小紅は冷静だった。

「黒鷹様」

 静かに声をかけると、黒鷹の肩がビクンッと跳ねる。急激に上がった熱のせいで敏感になっているのか?

 何度も咳き込み、息を詰め、返事もできないでいる辛そうな背中をしばし見つめていた小紅は立ち上がった。立ち上がって、布団の反対側に腰を下ろす。

「わかっているくせに、強情ですね」

 ただ、顔を隠す黒鷹を見つめる小紅。あえて彼を追い詰めるような発言をしているな?追い詰めて追い詰めて、その時が来るのを待っている。

 だが、黒鷹はしぶとかった。まるでミノムシのように頭まですっぽり布団の中に入ってしまい、大きな布団の山は震え何度も上下している。

 暑いだろうに。苦しいだろうに。情けない姿を見せたくない、小紅に部屋から出て行ってほしいとは言えない。

 大きなミノムシは苦しそうにくぐもったうめき声を漏らし、時折モゾモゾとうごめいている。ちょっと不気味だ。

 あまりにも強情なので布団を引っ剥がしてやろうかと思った矢先、大きなミノムシのモゾモゾが止まった。

「っ………………さ、寒いから……添い寝とか――」

「嫌です。申し訳ありませんが、我が主の命と言えど生涯の旦那様と決めた者以外と寝るなんてできません。でも…………手は、握ってもいいですよ。温かいですか?」

 即答。いや、少しだけ顔を出してやっと絞り出した黒鷹の声を潰すかの如く、小紅はきっぱりと拒否した。

 けれど柔らかく微笑み、布団に手を突っ込むと彼の手を見つけ両手で包み込む。

 寒いと言っていたのは本当のようだ。冷たい手を握られて、そのぬくもりに驚いた黒鷹は目を見開き小紅を見上げる。

 いつもの黒鷹なら、ふざけて手を引っ張って布団の中に連れ込んだりしただろう。真っ赤になった小紅を「可愛い」とか言って笑う。

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