239 / 386
想い
1P
しおりを挟む「具合が悪いのなら最初におっしゃってください」
「ごめんね。全てを話すなら今しかないって思ったんだ。あぁ……おかしい、なぁ…………なんだか急に息が、苦しく、て……っ」
横になると黒鷹の額に、玉のような汗が浮かんだ。顔色も一気に悪くなって背を向ける。
胸を押さえているのか、背中を曲げて苦しそうに荒い息を吐く。熱でも急激に上がったのか?しかし、小紅は冷静だった。
「黒鷹様」
静かに声をかけると、黒鷹の肩がビクンッと跳ねる。急激に上がった熱のせいで敏感になっているのか?
何度も咳き込み、息を詰め、返事もできないでいる辛そうな背中をしばし見つめていた小紅は立ち上がった。立ち上がって、布団の反対側に腰を下ろす。
「わかっているくせに、強情ですね」
ただ、顔を隠す黒鷹を見つめる小紅。あえて彼を追い詰めるような発言をしているな?追い詰めて追い詰めて、その時が来るのを待っている。
だが、黒鷹はしぶとかった。まるでミノムシのように頭まですっぽり布団の中に入ってしまい、大きな布団の山は震え何度も上下している。
暑いだろうに。苦しいだろうに。情けない姿を見せたくない、小紅に部屋から出て行ってほしいとは言えない。
大きなミノムシは苦しそうにくぐもったうめき声を漏らし、時折モゾモゾとうごめいている。ちょっと不気味だ。
あまりにも強情なので布団を引っ剥がしてやろうかと思った矢先、大きなミノムシのモゾモゾが止まった。
「っ………………さ、寒いから……添い寝とか――」
「嫌です。申し訳ありませんが、我が主の命と言えど生涯の旦那様と決めた者以外と寝るなんてできません。でも…………手は、握ってもいいですよ。温かいですか?」
即答。いや、少しだけ顔を出してやっと絞り出した黒鷹の声を潰すかの如く、小紅はきっぱりと拒否した。
けれど柔らかく微笑み、布団に手を突っ込むと彼の手を見つけ両手で包み込む。
寒いと言っていたのは本当のようだ。冷たい手を握られて、そのぬくもりに驚いた黒鷹は目を見開き小紅を見上げる。
いつもの黒鷹なら、ふざけて手を引っ張って布団の中に連れ込んだりしただろう。真っ赤になった小紅を「可愛い」とか言って笑う。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
隠れ刀 花ふぶき
鍛冶谷みの
歴史・時代
突然お家が断絶し、離れ離れになった4兄妹。
長男新一郎は、剣術道場。次男荘次郎は商家。三男洋三郎は町医者。末妹波蕗は母親の実家に預けられた。
十年後、浪人になっていた立花新一郎は八丁堀同心から、立花家の家宝刀花ふぶきのことを聞かれ、波蕗が持つはずの刀が何者かに狙われていることを知る。
姿を現した花ふぶき。
十年前の陰謀が、再び兄弟に襲いかかる。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
藤次郎と滝之丞とたま
トマト
歴史・時代
将軍家治には秘密がある。
幼い頃より、ずっと見守り続けている母娘。
二人が 穏やかに暮らしていくことが望みだが、活動的すぎるむすめっこ「たま」は、しばしば、いざこざに巻き込まれる。「たま」を補助するよう、お庭番 藤次郎がおくりこまれた。
《まったくのフィクションです》
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
女髪結い唄の恋物語
恵美須 一二三
歴史・時代
今は昔、江戸の時代。唄という女髪結いがおりました。
ある日、唄は自分に知らない間に実は許嫁がいたことを知ります。一体、唄の許嫁はどこの誰なのでしょう?
これは、女髪結いの唄にまつわる恋の物語です。
(実際の史実と多少異なる部分があっても、フィクションとしてお許し下さい)
伊勢山田奉行所物語
克全
歴史・時代
「第9回歴史・時代小説大賞」参加作、伊勢山田奉行所の見習支配組頭(御船手組頭)と伊勢講の御師宿檜垣屋の娘を中心にした様々な物語。時に人情、時に恋愛、時に捕り物を交えた物語です。山田奉行所には将軍家の御座船に匹敵するような大型関船2隻を含み7隻の艦隊がありました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる