鷹の翼

那月

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白と黒と光と影

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「――そして翌年、僕は記憶を失った和鷹を川で拾ったんだ。ふぅ……長くなっちゃったけど、これが僕と白鴇の全てだよ」

 長い長い、黒鷹の思い出話が終わった。桜鬼と高遠は気まずそうに顔を背けているし、土方と近藤は眉間に彫刻のような深いシワを刻んで黙り込んでいる。

 千歳は目を閉じてじっくり耳を傾け……いや、どうやら寝ているようだ。上半身がユラユラ舟をこいでいる。

 そして小紅は、目元に手拭いを当てて静かに泣いていた。腕の中に刀を抱いたまま、当時の黒鷹や白鴇の心と同調してしまって涙を流す。

 話し終わって大きく息を吐いた黒鷹はあまりにも静かなので「ちょっと疲れたよ」と、壁にもたれかかって苦笑。

 話を聞いてそれぞれ、色々と考え込んでいることだろう。千歳以外。さぁ、誰が最初に口を開く?

 話したことがすべて真実だと裏付けるものは何もない。けれど、事実なのだろう。皆、聞きたいことは山ほどあった。

「クロポンが城主を継がず、白様から逃げたのは他に何か重要な理由があるんじゃないの?」

 寝たフリだったのか。何から聞けばいいのか考えあぐねていた皆をよそに、実は起きていたらしい千歳がそう言って黄色い目を向けた。

「今話したことが全てで事実、他に理由なんてないよ。考えすぎ。コホッコホッ……はぁ。他に質問とかなかったら、もう休ませてもらってもいいかな?」

「うむ…………帰るぞ、トシ。かまわん。話してくれたことには感謝する。後日、また来る」

 情報と心の整理がつかないのか、近藤は立ち上がった。何かを感じ取ったのか、珍しく目で抗議するだけの土方も立ち上がり、黒鷹を一睨み。

 そのまま口を開くことなく、近藤と土方は小紅から刀を受け取ると桜鬼と一緒に部屋を出て行った。

 去り際、土方は小紅をジッと見つめていたが。小紅は目を合わせようとはせずその赤黒い瞳には黒鷹を映していた。その様子に、やはり何も言わなかったのは何を思ってのことか。

 今日のところは黒鷹が思っている以上に疲労困ぱい状態なので解散。小紅が黒鷹に刀を返すと、高遠も部屋を出て千歳も「帰るわ」と立ち去る。

 遠ざかる複数の足音が小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 途端に、黒鷹がズルズルと倒れてしまう。慌てて布団を敷き、何とか引っ張って布団の中に寝かせると、小紅は溜め息を吐いた。


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