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白と黒と光と影
10P
しおりを挟む血で汚れた浩之進の夜着に、黒鷹の熱い涙がにじんでいく。そんなに泣いたら明日、まぶたが腫れて白鴇に怪しまれるぞ?
浩之進は何度も「すまない」と呟き、黒鷹の頭を撫で続ける。愛する息子を、熱い想いを受け止める。
「ん、ズズッ……コホッ……はぁ。次の城主、ちょっと考えさせて。知識も刀の腕も僕より劣ると思うけど、白じゃだめなの?」
どんなに嫌だと拒んでも、浩之進の病は治らない。受け入れるしかない。受け入れて、その先へ進むしかない。
「黒は元々、あの家の長になるべくして育てられてきた。教養も、長の素質もあると見込んでのことだが。ゴホッゴホッ!はぁ、嫌か?」
「嫌じゃないけど、城主になるってことはその…………沙雪ちゃんのお婿さんになるってことでしょ?」
「む?あぁ、そういうことか。あれはお前に気があるようだぞ?」
「いっ、いや、そ、そういうことじゃないよ!?それも大事だけど。僕は……」
話が変な方向に逸れている。確かに、三上城の城主を継ぐということは同時に、浩之進の1人娘である沙雪の婿になるということだ。
ボッ!と頬を赤く染めた黒鷹は、けれど暗い顔に戻って首を横に振る。
「ゴホッ!ケホケホッウエッフ!んんっ…………まぁ、どうしても継げぬと決断すれば諦めて白に声をかける。コホッコホッ!3日のうちに、な?」
なぜそんなにも悩むのか?養子になったとはいえ元は拾われた赤の他人だから?しかも何人もの人を殺した罪人だから?
それとも、浩之進の娘にしては綺麗で可愛い、町では人気の高い沙雪のことが気に入らないのか?
理由は他にある。9歳の少年の顔を暗く暗く陰らすほどの深い理由があるのだと、浩之進は悟って「もう戻りなさい」と背を向ける。
せっかく声をかけてくれたのに、期待に応えられない。そんな自分が歯痒い。
ギュッと目を閉じ膝の上の拳を握り締めた黒鷹は「はい、ありがとうございます」と、声を震わせてそっと目を開く。
浩之進の布団をかけ直してやってから立ち上がると、深々と頭を下げてから部屋を出て行った。
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