鷹の翼

那月

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白と黒と光と影

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 その日の夜。自分の咳で熟睡できないでいた浩之進の部屋に、来訪者が。

「……そろそろ来る頃だと思っていたぞ、構わぬから入れ、黒。ゴホッ!某もお前に話がある」

 静かに襖を開けて入ってきたのは、顔をうつむかせる黒鷹。枕元に座っても何も言わず、浩之進と目を合わせようとしない。

「では某が先に話すが。コホッ、コホッコホッ…………次の城主には、お前になってほしい。この意味が分かるな?」

「っ!!じゃあ、僕の思い違いじゃなかったんだね。何でこんなギリギリまで隠してた?佳代さん達は知ってるの?」

「酷い風邪だと言っていたのに、黒はよく見抜いたな?」

「質問に質問で返すなっ!僕は…………その病気の人をよく知っているんだよ。夜中に隠れるように酷い咳をして、昼間に我慢していた血を吐いて…………そして……死ぬんだ」

 バッ!と顔を上げた黒鷹は浩之進の胸ぐらをつかみ睨みつける。本気で怒っている。そして、堪えきれなかった涙をこぼした。

 笑みを浮かべる浩之進の口元が、血で汚れているから。枕元にある木桶には吐しゃ物が混じった血と手ぬぐい。布団も赤く染まっていた。

 その全てが、明るく振る舞っている浩之進が余命いくばくもないことを示していた。これ以上、回復することはない。

「見舞いに来た時、ここは血の匂いがした。白にはわからないくらい薄いものだと思うんだけど、僕はあの鉄っぽい匂いに敏感だから。まさか本当に、そうだとは思いたく、なかったのに……」

 胸ぐらをつかむ手から力が抜け、布団に体を預ける浩之進は黒鷹の肩に腕を回し抱きしめる。

 そうしないと、ボロボロ泣き出した黒鷹の声が外に聞こえてしまうから。歯を食いしばっても、くぐもった苦しい嗚咽が漏れる。

 この病の恐ろしさを知っているから、もうどうしようもないから、悔しくて悲しくて歯がゆくて。

 何度も「なんで、どうしてこんな」と、浩之進の胸を力なく叩いて肩を震わせる。黒鷹は、覆いかぶさるように浩之進を抱きしめ返した。

 城主だから。命の恩人だから。でも1番は、父親だから。信頼し尊敬している父親の体を、不治の病がむしばむ。それが嫌で嫌で、強い想いが涙となってあふれ出る。

 本当の父親には、もしも同じ病にかかったとしてもこんな感情は抱かなかっただろう。

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