230 / 386
白と黒と光と影
8P
しおりを挟む佳代に“母親”を感じるように、浩之進にも“父親”を感じ始めていた黒鷹と白鴇。
城主ということもあるし心配だ、何か自分達にできることはないだろうかと、城に帰ってから白鴇は黒鷹に声をかけた。
「美味しいごはん、作ってあげようか。僕達を助けてくれた時みたいに、お茶と粥を持ってさ?」
黒鷹の提案に白鴇は目を輝かせた。あの時とは立場が反対。翌日、佳代に頼み込んで浩之進に会う許しをもらった。
6回も「だめよ。移ったらあの人、泣いちゃうんだから」と断られた。それでも諦めきれなかった2人は先に、お茶と粥を用意してからもう1度頼み込んだのだった。
まさか佳代という大きな壁を乗り越えてやってくるとは思わなかっただろう。眠ってはいないが横になって咳をしていた浩之進は、突然の息子達の見舞いに驚いてむせ込む。
部屋に招き入れ、2人が持っているものに気付けば「なるほどな」と心から嬉しそうに笑顔を浮かべる。
浩之進は2人が思っていたよりも重篤。顔色は悪く、あまり食べていないのか少し痩せていた。しかし自力で起き上がり、出来立ての粥を口に運ぶ様子を見ればあと数日で回復しそう。
実はこの時は食欲なんかなかったが、2人のために器を空にした。どんな味付けをしたのか、美味くてさじが進んだということもある。
食後に少し話をした。回復するまで、溜まっている城主の仕事を手伝わせてもらうとか。飴屋に隠し子だと言われたんだとか。
楽しそうに笑顔を浮かべる浩之進は「頼もしい息子達に育ったものだ」と、再び横になる。
それを合図に2人は立ち上がり早速書類の処理に取り掛かろうと、山積みになっている書類を手に背を向けた時だった。
「…………無理はしないでね、父上」
ポツリと呟いた黒鷹の言葉に浩之進はハッと起き上がる。しかし2人の姿はもうない。
初めて“父上”と呼んだ。いつも“浩さん”だったのに。それに、喜ばしいはずなのに声は低くあの言葉には何か深い想いを感じる。
まさか気付いたというのか?激しく咳き込む浩之進は枕もとのお茶に目を向け、考えた。そういえば黒鷹はずっと、特に咳をする時にジッと見ていた。
もしも気づいてしまったのなら、浩之進は次に2人に会った時にどんな顔をすればいい?体調を崩しているのが風邪ではなく、治ることのない病だというのに。
いつもは飄々としているが、何かと観察眼の鋭い黒鷹のことだ。その事実に気付いてしまったのなら。覚悟を決めた浩之進は、目を閉じた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。
あの日、自遊長屋にて
灰色テッポ
歴史・時代
幕末の江戸の片隅で、好まざる仕事をしながら暮らす相楽遼之進。彼は今日も酒臭いため息を吐いて、独り言の様に愚痴を云う。
かつては天才剣士として誇りある武士であったこの男が、生活に疲れたつまらない浪人者に成り果てたのは何時からだったか。
わたしが妻を死なせてしまった様なものだ────
貧しく苦労の絶えない浪人生活の中で、病弱だった妻を逝かせてしまった。その悔恨が相楽の胸を締め付ける。
だがせめて忘れ形見の幼い娘の前では笑顔でありたい……自遊長屋にて暮らす父と娘、二人は貧しい住人たちと共に今日も助け合いながら生きていた。
世話焼きな町娘のお花、一本気な錺り職人の夜吉、明けっ広げな棒手振の八助。他にも沢山の住人たち。
迷い苦しむときの方が多くとも、大切なものからは目を逸らしてはならないと──ただ愚直なまでの彼らに相楽は心を寄せ、彼らもまた相楽を思い遣る。
ある日、相楽の幸せを願った住人は相楽に寺子屋の師匠になってもらおうと計画するのだが……
そんな誰もが一生懸命に生きる日々のなか、相楽に思いもよらない凶事が降りかかるのであった────
◆全24話
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる