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白と黒と光と影
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しおりを挟む――質素倹約の生活を続けているらしく、2人はそこらの町人と同じような食事を浩之進や佳代、それからその娘と一緒に食べた。
走れるまでに回復した2人は恩返しにと、城の中の掃除や片付けなど、毎日1日中働いた。
何をどれくらいやれば恩を返せるのかなんてわからない。でも、小さな城の割に家臣や侍女が少なすぎて毎日が戦争のような光景を目にしてしまえば手伝いたくもなる。
浩之進も、城主なりに膨大な量の仕事があるようで。半日は自室で書類と睨み合い。半日は町に出て町人達の声に耳を傾けていた。
決して差別をしない、どんな些細な言葉にも真剣に向き合う。町人全ての名前や家、職業なども覚えているのだという。
ある日2人で掃除をしていると「三上様は皆に愛される素晴らしいお方なのよ」と、通りがかった侍女が話をしてくれた。
「しーろー、どこに行ったのー?しーろー?おーい……あ、白!と、浩さん?」
ある日、いつも一緒にいた白鴇の姿がなくて探していると、庭で木刀を持つ真剣な白鴇と浩之進を見つけた。
「やぁ黒、お前にも稽古をつけてやろう。相当な腕だと白から聞いたが、だいぶなまっているだろう?」
どうやら浩之進に剣の稽古をつけてもらっているらしい。才能がないとすぐに見捨てられていた白鴇は、持ち方から教わっていた。
やっとまともに教えてもらえる。強くなって、黒鷹を守るのだという意気込みが言葉にしなくても伝わってくる。それほど、真剣にギュッと木刀を握り締める白鴇。
手招きをされ駆け寄った黒鷹の手に、木刀が握らされる。体が覚えている。しっかり両手で握り、少し離れて「へぇ、懐かしい」と一振り。
瞬間、黒鷹の脳裏にあの日のことが鮮明に思い出される。何人もの人を、両親を斬ったあの感触を、思い出す。
斬りかかってきた者、対話で何とかしようと両手を広げて立ちふさがった者も容赦なく斬った。恐怖に怯える母親を背中から斬った。
母親を斬った直後に駆け付けた父親に、母親の返り血を浴びたその姿から「まるで夜叉だな」と言われた。
何度も何度も、激しく刃を交えお互いに深手を負ってもなお倒れない。手加減はしていない。黒鷹は目の前の男を斬って白鴇を救うことだけを考えていた。
その強い想いに気付いたのだろう。父親は、渾身の力で振り下ろされる黒鷹の刀を受け止めようとした刀を――手放した。
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