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白と黒と光と影
2P
しおりを挟むそれから、2人で支え合いながら起き上がると部屋の中を見渡す。さすがに立ち上がり布団から出るほどの体力はまだないので、お互いにもたれかかって襖を見つめる。
誰かの気配が近づいてきている。それも複数。意識を集中して数えていると「ぐぅぅきゅるるるー」と、久しぶりに2人の腹が鳴った。
「あっはっはっはっ!今のは腹の音か?すごいな、外まで聞こえたぞ。食欲があるなら食う練習するか。茶と粥を持ってきたゆえ、まずは茶を飲んでみろ」
豪快に笑い飛ばしながらさっきの男と、女が2人入ってきた。
女はそれぞれお茶と粥の膳を持っていて、畳の上に下ろすと黒鷹と白鴇の後ろに回って背中を支えながら湯呑みを口元に持っていく。
2人の前では、腰を下ろした男が同じ急須から入れたお茶を美味しそうに飲んでいる。毒なんか入ってないという証明のつもりか。
湯呑みに手を添えて恐る恐る、少しだけ口に含む。普通の、というかとても美味しいお茶だ。
数日ぶりの水分に、飲んだお茶が体の隅々まで染み渡っていくような感じがした。2人はチビチビと、少しずつ時間をかけて湯呑み1杯のお茶を飲み干した。
次は粥だ。食欲が増してまた腹が鳴り、美味しそうな粥の匂いに思わずむせそうになる。
「ま、待って。おじさんはどうして僕達のことを知ってて優しくするの?僕達、恩を返せるものなんて何も持ってないんだけど」
黒鷹はさじで粥を掬った女の手を押し戻し、男に目を向ける。
驚いたことに、白鴇も同じように女が運ぶ粥を拒んで口を開いていた。同じことを言おうとしていたのかもしれない。さすがは双子。
男は自分用に用意されていたおにぎりを両手に1つずつ持って夢中で頬張っていた。目が合っても、口の中がいっぱいでしゃべれないでいる。モゴッモグモグモグッ。
「あなた、子供の前でその汚い食べ方はよしてくださいな。ごめんね。私達には娘が1人しかいなくてね、困ってる子を見たら放ってはおけないの」
お茶で口の中のものを流し込もうとしている男の代わりに答えたのは、黒鷹の背中を支えている女。
男の嫁なのか。「汚い」と睨まれた男は情けないことに、ビクッと肩を震わせて目を反らしている。なら白鴇を支えている若い女は?
もしかして男の娘だろうかと、白鴇は顔を上に向けて若い女を見つめる。が、どうやらそうではないらしい。
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