220 / 386
出遭う
8P
しおりを挟むあまりにも遅いので「もしかしたら兄さんも僕をだましているんじゃ……」と疑ったことは、正直何度かあった。でもやっぱり、疑った後には信じることを選んだ。
白鴇の味方は黒鷹ただ1人。たった1人の理解者。白鴇にとっては黒鷹が全て。彼が背を向ければ最後、白鴇に未来はない。
もう自分ではどうにもできない。いつ来るのか、本当に来てくれるのかもわからない助けを、ただひたすら1人で待ち続けるのはさぞかし不安だっただろう。
でも、黒鷹は助けに来てくれた。手を差し伸べてくれている。あとは、白鴇が彼の手を取るだけ。行け、このくだらない家ともお別れだ!
「遅いよ!待ちくたびれちゃったよ。でも、信じて待ってた。だからありがとう、兄さん!」
屋敷は火の海だろう。小屋の天井に燃え移った炎が見えたその瞬間、白鴇は兄の腕の中に飛び込んだ。
その後、十数日は2人だけで何とか生きていけた。飢えをしのぐために山や川で食料を取って、どうしても手に入らなかった時は町で盗みを働いて。
しかも、2人を探す大人達から逃げながら。子供2人だけでは限界がある。日に日にやせ細っていく2人は十分に栄養が摂れず、動くこともできなくなって静かに目を閉じる。
深い山の中、誰も使わなくなった小さな納屋の片隅で2人は寄り添い合い、お互いの手を握って死を待つ。
自由を求めただけなのに、きっとこれは罰なんだ。未来なんてそう簡単には変えられない。
けれど、あの両親から解放された。檻のような屋敷から出られた。白鴇はそれで十分だった。
「ごめんね、白。せっかく出られたのに。もっと自由に、2人で楽しく暮らしたかったんだけど、僕達は子供だから……」
「いいよ。何もかも兄さんがしてくれた、辛いのは兄さんの方。助けてくれたのも、僕の世話をして色々教えてくれたのも。少しの間だけだったけど、大好きな兄さんと一緒に過ごせた。最期を兄さんと一緒に迎えられるなら、嬉しい」
「白は、優しすぎるよ。あぁ、生まれ変わったら、きっと……今度、こそ……」
「兄さん?待って、僕――」
「や、こんな所に子供が!死んでおるのか?いや、まだ息がある。これ、目を開けなさい!先の長い子供が生きることを諦めるなっ!!」
意識が遠のき始めたその時、納屋の扉が開いて何者かが叫んだ。2人に駆け寄り、頬を叩いて、逞しい両腕で抱き上げる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
平隊士の日々
china01
歴史・時代
新選組に本当に居た平隊士、松崎静馬が書いただろうな日記で
事実と思われる内容で平隊士の日常を描いています
また、多くの平隊士も登場します
ただし、局長や副長はほんの少し、井上組長が多いかな
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
空母鳳炎奮戦記
ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。
というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!
ライヒシュタット公の手紙
せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを巡る物語。
ハプスブルク家のプリンスでもある彼が、1歳年上の踊り子に手紙を? 付き人や親戚の少女、大公妃、果てはウィーンの町娘にいたるまで激震が走る。
カクヨムで完結済みの「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」を元にしています
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
なんか、あれですよね。ライヒシュタット公の恋人といったら、ゾフィー大公妃だけみたいで。
そんなことないです。ハンサム・デューク(英語ですけど)と呼ばれた彼は、あらゆる階層の人から人気がありました。
悔しいんで、そこんとこ、よろしくお願い致します。
なお、登場人物は記載のない限り実在の人物です
幕末群狼伝~時代を駆け抜けた若き長州侍たち
KASPIAN
歴史・時代
「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し。衆目駭然として敢えて正視する者なし、これ我が東行高杉君に非ずや」
明治四十二(一九〇九)年、伊藤博文はこの一文で始まる高杉晋作の碑文を、遂に完成させることに成功した。
晋作のかつての同志である井上馨や山県有朋、そして伊藤博文等が晋作の碑文の作成をすることを決意してから、まる二年の月日が流れていた。
碑文完成の報を聞きつけ、喜びのあまり伊藤の元に駆けつけた井上馨が碑文を全て読み終えると、長年の疑問であった晋作と伊藤の出会いについて尋ねて……
この小説は二十九歳の若さでこの世を去った高杉晋作の短くも濃い人生にスポットライトを当てつつも、久坂玄瑞や吉田松陰、桂小五郎、伊藤博文、吉田稔麿などの長州の志士達、さらには近藤勇や土方歳三といった幕府方の人物の活躍にもスポットをあてた群像劇です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
悪魔サマエルが蘇る時…
ゆきもと けい
SF
ひ弱でずっとイジメられている主人公。又今日もいじめられている。必死に助けを求めた時、本人も知らない能力が明らかになった。そして彼の本性は…彼が最後に望んだ事とは…
式神
夢人
歴史・時代
これは室町末期、すでに戦国時代が始まろうとしていた頃。賀茂家信行から隆盛した陰陽道も2代目に移り弟子の安部清明が活躍、賀茂家3代目光栄の時代には賀茂家は安倍家の陰に。その頃京の人外の地の地獄谷に信行の双子の一人のお婆が賀茂家の陰陽道を引き継いでいて朱雀と言う式神を育てていた。
がむしゃら三兄弟 第三部・長尾隼人正一勝編
林 本丸
歴史・時代
がむしゃら三兄弟の最終章・第三部です。
話の連続性がございますので、まだご覧になっておられない方は、ぜひ、第一部、第二部をお読みいただいてから、この第三部をご覧になってください。
お願い申しあげます。
山路三兄弟の末弟、長尾一勝の生涯にどうぞ、お付き合いください。
(タイトルの絵は、AIで作成いたしました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる