鷹の翼

那月

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出遭う

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 あまりにも遅いので「もしかしたら兄さんも僕をだましているんじゃ……」と疑ったことは、正直何度かあった。でもやっぱり、疑った後には信じることを選んだ。

 白鴇の味方は黒鷹ただ1人。たった1人の理解者。白鴇にとっては黒鷹が全て。彼が背を向ければ最後、白鴇に未来はない。

 もう自分ではどうにもできない。いつ来るのか、本当に来てくれるのかもわからない助けを、ただひたすら1人で待ち続けるのはさぞかし不安だっただろう。

 でも、黒鷹は助けに来てくれた。手を差し伸べてくれている。あとは、白鴇が彼の手を取るだけ。行け、このくだらない家ともお別れだ!

「遅いよ!待ちくたびれちゃったよ。でも、信じて待ってた。だからありがとう、兄さん!」

 屋敷は火の海だろう。小屋の天井に燃え移った炎が見えたその瞬間、白鴇は兄の腕の中に飛び込んだ。

 その後、十数日は2人だけで何とか生きていけた。飢えをしのぐために山や川で食料を取って、どうしても手に入らなかった時は町で盗みを働いて。

 しかも、2人を探す大人達から逃げながら。子供2人だけでは限界がある。日に日にやせ細っていく2人は十分に栄養が摂れず、動くこともできなくなって静かに目を閉じる。

 深い山の中、誰も使わなくなった小さな納屋の片隅で2人は寄り添い合い、お互いの手を握って死を待つ。

 自由を求めただけなのに、きっとこれは罰なんだ。未来なんてそう簡単には変えられない。

 けれど、あの両親から解放された。檻のような屋敷から出られた。白鴇はそれで十分だった。

「ごめんね、白。せっかく出られたのに。もっと自由に、2人で楽しく暮らしたかったんだけど、僕達は子供だから……」

「いいよ。何もかも兄さんがしてくれた、辛いのは兄さんの方。助けてくれたのも、僕の世話をして色々教えてくれたのも。少しの間だけだったけど、大好きな兄さんと一緒に過ごせた。最期を兄さんと一緒に迎えられるなら、嬉しい」

「白は、優しすぎるよ。あぁ、生まれ変わったら、きっと……今度、こそ……」

「兄さん?待って、僕――」

「や、こんな所に子供が!死んでおるのか?いや、まだ息がある。これ、目を開けなさい!先の長い子供が生きることを諦めるなっ!!」

 意識が遠のき始めたその時、納屋の扉が開いて何者かが叫んだ。2人に駆け寄り、頬を叩いて、逞しい両腕で抱き上げる。

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