鷹の翼

那月

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おとうととおとうと

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 この曲者の本当の任務が和鷹か鷹の翼の誰かをおびき出し、差し違えることなら。あとから現れた5人の忍は曲者が任務を放棄して逃げださないようにするための監視か。

 もしくは今回のように、おびき出した鷹の翼が1人でなく差し違えが難しくなった場合の手助けをするためか。

 何にせよ、彼らの任務は完了してしまった。しかしなぜ?犠牲になったのは鷹の翼の和鷹と、新選組の隊士。

 ついに新選組が鷹の翼を一掃するために仕組んだことなのか?隊士を斬ったと言いがかりをつけ、一網打尽に。

 しかし、いくら鷹の翼に困らされているとはいえ隊士の命を犠牲にここまでするだろうか?それに、あの5人の忍は新選組の仲間には見えない。

 人間らしい心を取り戻しつつある鳶の心がザワザワとざわめき、胸を押さえながら黒鷹に目を向ける。彼は、和鷹の胸に刺さっている小太刀に手をかけていた。

「御用改めである、神妙にいたせっ!……って、これは一体どういうことだ?待て動くな!神妙にしろと言ったはずだ、動けば即刻その首をはねてやる」

 何というか、見計らったかのように屋敷の反対側の茂みから新選組のお出ましだ。

 すかさず高遠が抜刀しながら斬りかかろうとしたが、新選組の先頭にいる男が脅すより早く桜鬼が肩をつかんで引き下がらせた。

 が、その高遠の肩をつかんでいる手にグッと力がこもる。高遠が痛みに振り向くほどに、桜鬼は怒りを露わにしていた。

「副長、アレはうちのっすよ。最近怪しい行動が見られてたんで監視をつけてたんすけど……」

「初耳だな。この俺への報告を怠るとは、あとで必ず部屋に来い。おい黒鷹、何があったか説明しやがれ。場合によってはてめぇらを全員連れて行く」

 先頭に立っている男――新選組の副長、土方は傍らに控える山崎が指さす曲者がすでにこと切れているのを悟ると抜刀、黒鷹にキラリ煌めく切っ先を向ける。

 御用改めだと言っていたし、驚いていた様子を見るとこれは曲者の単独行動か?いや、それではただの狂人だ。目的がない。

 土方も一目見てわかっただろう。これは、異様な光景だと。

「俺が……全て、見ていた。その男……数日前から――」

 ヒュオッと周りの空気が一気に冷えたような感じがした。黒鷹だ。和鷹の遺体を抱きしめたままの黒鷹の体から、ドロドロとしたどす黒い殺気がにじみ出ている。

 土方の声を耳にした途端、叫ぶのをやめ流していた涙が止まった。桜鬼達ですら怯むほどの殺気。

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