208 / 386
おとうととおとうと
5P
しおりを挟む押さえる手の隙間から、止めどもなく血があふれ出てくる。普段の彼からは想像もできないほどの乱暴な口調での命令を、誰も聞かなかった。
ここにいる全員が、和鷹がもう助からないことを悟ったから。
ヒューヒューと弱々しく浅い呼吸を繰り返す和鷹に手を伸ばす鳶を、雪が抱きしめた。何も言わないで、彼の背中に顔をうずめるようにギュッと抱きしめる。
高遠は信じられねぇと顔に書いたまま、脱力してペタンとその場に座り込む。その頬はすでに濡れていた。
桜鬼は猫丸の手を引いて背を向け、静かにその時が来るのを待つ。猫丸も胸に子猫を抱きかかえ、口を引き結んで目を閉じている。
そして小紅は。1歩踏み出し、黒鷹の真っ赤になった手に触れようと傍らにしゃがみ込む。
「黒鷹様……和鷹さんは、もう――っ!」
「うるさいッ!!しっかりしろ和、僕より先に死ぬなんて絶対に許さないよ!お前が死んだら誰が僕のあとを継ぐって言うんだ!?」
黒鷹は小紅を拒んだ。今までで初めてだ。パシンッ!と小紅の手を叩き、その手は和鷹の手を握り締める。
あまりの剣幕にしりもちをついた小紅は何か言い返そうと口を開き、しかしそのまま何も言わずに目を伏せて引き下がった。
「あにう、え、俺……勝手なこと、して……ゴフッ!……兄上を、守りたかったんだ。ただ……それ、だけだった、のに……」
「あぁ、本当に勝手だな!でもそんな勝手なお前を見て見ぬフリをしていた僕がいけなかったんだ。最初にお前を注意していれば、こんなことには……」
「俺も鳶も、おびき出された。まだ、ゴホッゴホッ!カハッ!終わってない……幕府、狗、注意しろ……」
「気をしっかり持て、和!剣術で僕に必ず勝つって、勝ったら僕の結い紐をあげるって約束があるだろう!」
「…………兄弟らしく、兄上の、お下がり……欲しかった。兄上は俺の…………あこがれ、だから。でも、全然勝てなかった」
「和…………お前は僕の大切な弟だよ。いつも何かと口うるさくて、でも僕が放り出した仕事を引き受けてくれて、優秀過ぎて頼ってばっかりだった。お前の想いに気付けなかった。もっと、兄らしく……遊んだり、したかったのに……っ」
黒鷹はついに現実を受け入れた。どんどん血の気が失せていく和鷹の手を両手で握り締め、ボロボロと涙をこぼす。
黒鷹の涙に、目の前にまで迫ってきた死の恐怖に、和鷹はついに「死にたくない!怖い!」と泣き叫んだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
真田源三郎の休日
神光寺かをり
歴史・時代
信濃の小さな国衆(豪族)に過ぎない真田家は、甲斐の一大勢力・武田家の庇護のもと、どうにかこうにか生きていた。
……のだが、頼りの武田家が滅亡した!
家名存続のため、真田家当主・昌幸が選んだのは、なんと武田家を滅ぼした織田信長への従属!
ところがところが、速攻で本能寺の変が発生、織田信長は死亡してしまう。
こちらの選択によっては、真田家は――そして信州・甲州・上州の諸家は――あっという間に滅亡しかねない。
そして信之自身、最近出来たばかりの親友と槍を合わせることになる可能性が出てきた。
16歳の少年はこの連続ピンチを無事に乗り越えられるのか?
忍びしのぶれど
裳下徹和
歴史・時代
徳川時代、使い捨てにされる自分達の境遇に絶望し、幕府を転覆させることに暗躍した忍者留崎跳。明治の世では、郵便配達夫の職に就きつつも、駅逓頭前島密の下、裏の仕事にも携わっている。
旧時代を破壊して、新時代にたどり着いたものの、そこに華やかな人生は待っていなかった。政治の中枢に入ることなど出来ず、富を得ることも出来ず、徳川時代とさほど変わらない毎日を送っていた。
そんな中、昔思いを寄せた女性に瓜二つの「るま」と出会い、跳の内面は少しずつ変わっていく。
勝ち馬に乗りながらも、良い立ち位置にはつけなかった薩摩藩士石走厳兵衛。
元新選組で、現在はかつての敵の下で働く藤田五郎。
新時代の波に乗り損ねた者達と、共に戦い、時には敵対しながら、跳は苦難に立ち向かっていく。
隠れキリシタンの呪い、赤報隊の勅書、西洋の龍と東洋の龍の戦い、西南戦争、
様々な事件の先に、跳が見るものとは…。
中枢から時代を動かす者ではなく、末端で全体像が見えぬままに翻弄される者達の戦いを描いた小説です。
活劇も謎解きも恋もありますので、是非読んで下さい。
せかいのこどもたち
hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。
あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。
さくらはパーティかいじょうにいくと……。
☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。
無断で転載することはお止めください。
鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜
八ケ代大輔
歴史・時代
徳川家康を天下に導いた十六人の家臣「徳川十六将」。そのうちの1人「槍の半蔵」と称され、服部半蔵と共に「両半蔵」と呼ばれた渡辺半蔵守綱の一代記。彼の祖先は酒天童子を倒した源頼光四天王の筆頭で鬼を斬ったとされる渡辺綱。徳川家康と同い歳の彼の人生は徳川家康と共に歩んだものでした。渡辺半蔵守綱の生涯を通して徳川家康が天下を取るまでの道のりを描く。表紙画像・すずき孔先生。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる