鷹の翼

那月

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見通す者と影

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 真夜中だというのに、黒鷹と小紅は楽しそうに笑顔を浮かべながらしばらく談笑していた。

 きっと小紅は、自分の咳と体調不良で深く眠れない黒鷹の気を紛らわそうとしていたのだろう。それぐらいは小紅なら、彼を見ていてわかる。

 そして黒鷹も、彼女が気を使ってくれているとわかっていた。彼女がそばにいるのが嬉しいと言った言葉に嘘偽りがないのは、彼の表情を見ていればよくわかる。

 とても落ち着いていて自然。よく笑って、よくしゃべって、疲れた頃に眠気が黒鷹を迎えに来て。

 ようやく眠りについたのは黒鷹が個人的に楽しい話を3つ、小紅が3つ目の話を途中まで話していた時だった。

 黒鷹の反応がなくなって不思議に思った小紅がそっと顔を覗き込むと、彼は穏やかな表情で眠っていた。呼吸も落ち着いていて、静かな寝息に「おやすみなさいませ」と下がる。

 万が一のこともあり小紅は自室には帰らず、壁際に座り直して仮眠をとることにした。

 楽しいひと時に、話に夢中になって黒鷹は2人だけの時間に心を浸した。そのおかげでゆったり眠れるようになった。

 けれど気づけなかった。夢中になりすぎて、密かに目を覚まし屋敷の外へと出て行った者がいることに。

 それもわざわざ黒鷹の部屋の外で立ち止まり、何を思ってのことかしばらくの間気配を消してそこに立っていた。楽しげな2人の声を聞いていた。

 そしてその者はそのまま声をかけることもなく深々と頭を下げ、その場を去ってしまったのだ。

 小紅はただ、黒鷹のことを想って楽しくおしゃべりをした。黒鷹のために、そうしたかったから。

 まさか数刻後、大切な者が物言わぬ魂の抜け殻となってしまうとは、この時の2人は考えもしなかっただろう。

 幸せな時間なんて、必ず音を立てて崩れ落ちると相場が決まっているのだ。


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