鷹の翼

那月

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見通す者と影

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 実は小紅は、さっき鳶が口元の布を下ろして笑顔を見せた時に酷く緊張していた。「え、まさか!」と、自分の肩に乗せられた鳶の手に力がこもるものだから、そのまま接吻されるのかと体をこわばらせていた。

 そんな雰囲気が、確かにあった。けれどそうではなかった。ホッと安堵した、小紅の気持ちなんて鳶は知らないのだろうな。

 なんて有り得ない妄想を、首をブンブン横に振って払拭。小紅が黒鷹よりも信頼されるなんてないし、そもそも鳶は雪の夫だ。

 そう考えて勝手に納得したのだろう。ちょっと、違う気もするが。

「じゃあ次は黒鷹様の番です。楽しい話をしてください」

「紅ちゃん、弱ってる僕を休ませる気なんてないね。んー、コホッコホッ……楽しいというか嬉しいんだけど。こうして、紅ちゃんが僕のそばにいて甲斐甲斐しく世話してくれているのが何よりも嬉しいよ」

「なっ!?それは、黒鷹様が私を生かしてくれているから、小姓としての居場所を与えてくれたからですよ」

「君なら自由になった途端に自害するか逃げ出すか、もしくは僕の首を狙うと思っていたからね。覚悟していたのに」

「物騒なことを言わないでください。楽しい話をしましょう、明るくて楽しい話ですっ」

 黒鷹は人をからかうのが好きだ。それは新選組の沖田もそうだが、人をわざと怒らせたり恥ずかしい思いをさせるのが大好きで、嫌われやすいのに憎まれない。

 黒鷹は特に小紅をからかうのが好きなようだ。怒ってもすぐに笑ってくれるし、黒鷹自身、彼女に対しては本気で怒らせたり傷つけたりするようなことはできない。

 これが沖田の場合だと、相手が土方になる。昔からの馴染みらしいが、土方を怒らせると地の果てまで追いかけるというくらい爆発する。

 黒鷹と沖田は、似ているようで似ていなくて似ている。そう。性格以外でも、よく、似ている。

「僕にとっては明るくてとても楽しい話だよ、クスクスクス」

「それは黒鷹様個人のことでしょう?私は全然楽しくありませんっ。次は私の話です。えーと、この間牢に私の見張り番で来ていた高遠さんが――」

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