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見通す者と影
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しおりを挟むいや、無意味ではないか。彼は臨機応変という言葉を大事にするようになった。それが、己と向き合って考え導き出した結果。
今夜の見張りに猫丸を参加させたのも、鳶の判断。あらかじめ最近の猫の様子を聞き、参加させるべきだと判断した。
半分は小紅の影響。そしてもう半分は、小紅の影響で悩んでいたことを全て雪に打ち明けたから。
体質のせいで忍の世界から追放された天才忍者の鳶は、1人の男として愛する者と心を通わせることで新たな1歩を踏み出した。
彼の里の忍頭が今の彼を見れば忍として失格だと落胆するだろう。それでもいい、と鳶は思うようになった。
心を捨てるために自分の手で両親を暗殺したあの日、鳶という名の天才忍者は生まれた。
鷹の翼の一員として過ごしていくうちに夜鷹に、雪に、壊したはずの心の欠片を集めてもらった。長い時間をかけて出来上がった新しい心を宿し、鳶という名の1人の男が生まれた。
「おかえり、なんだか嬉しそうだね?良いことでもあった?茶柱が立ってたりして」
「はい。そうなんです!すごいですよ、茶柱が3本も立ってます。ほらっ」
枕元に淹れ直した茶の入った湯呑みを置くと黒鷹が起き上がろうとしたので背中を支え、ユラユラと湯気が立ち上る湯呑みを差し出す。
「えっ……うわ、ホントだ。実は僕を驚かそうと仕込んで……ないよねぇ。茶柱が同時に3本も立つなんて、逆に悪いことでも起こらなければいいけど」
そこには紛れもなく、茶の中にまっすぐ浮かぶ茶柱が3本。たまに茶柱が立つことはあっても2本同時は滅多にないのに、3本が同時なんて。
もはや奇跡のような偶然に目を丸くした黒鷹は、苦笑を浮かべながら心配そうに外に目を向ける。
「病は気から。悪いことも、考えていれば起こりやすくなると聞いたことがあります。楽しいことを考えましょう。さきほど、鳶さんが自然な笑顔を見せてくださいましたよ?」
とても自然で、柔らかな笑顔だったとさっきの鳶とのやり取りを黒鷹に話す小紅。
話を聞いている間、鳶の滅多に見られない笑顔と初めて見た口元にやや興奮気味に笑っていた小紅。だがなぜか黒鷹は顔に笑顔を張り付けたままどこか怒っているようだった。
それに気づいて小紅が不安そうにするも「何でもないよ」とニッコリ微笑む黒鷹。もしかしたら、頭領である黒鷹は鳶の笑顔や口元を見たことがなかったりするのかもしれない。
ということは小紅は、黒鷹よりも鳶に信頼されているのか、あるいは気に入られている?
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