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見通す者と影
3P
しおりを挟む――その夜。解放され皆から仲間だと受け入れられた喜びと安堵に泣いて目元の腫れがなかなかひかない小紅は、黒鷹の部屋にいた。
「全然平気じゃないじゃないですか。つないでいた手が熱いと思ったら、やっぱり熱があるだなんて」
「あはは、紅ちゃんを早く外に出してあげたくてね。歩けるようになったからつい、ゴホッゴホッ!頑張っちゃった」
「もう、余計に心配します。ちゃんと回復なさるまでつきっきりで看病しますから、もう眠ってくださ――」
「来た。紅ちゃん、少しの間だけ出て行ってくれる?すぐに済むけど大事な話だから」
広間で小紅が嬉し泣きしている間にいつの間にか黒鷹の姿が消えていた。彼女に気を取られていて、気付いた時には後を追っていた鳶が廊下に倒れている彼を抱きかかえていた。
また、熱が出てしまったらしい。笑う余裕はあっても顔色が悪い。額に浮かんだ玉のような汗が熱の高さを物語っている。
枕元で手拭いを手に汗をぬぐう小紅の手を、黒鷹は押しのけた。1人分の気配がかすかに、廊下にある。
すぐ近くにいるのに気配を最小限にとどめている。ここに来るまでは足音も気配も完璧に消していた、その気配の主を小紅は知っている。
だから小紅は「わかりました」と素直に引き下がり、汗をたっぷり染み込んで重たくなった手拭いを手に立ち上がると部屋を出て行く。
代わりに、片膝立ちの鳶が少し頭を下げてから部屋の中へ。
「猫達が騒いでいます。念のため、今夜は、丸も使いますが……お気を付けください。その咳は……闇夜によく聞こえる」
「あぁ、ゴホッゴホッゴホッ……はぁ。悪いけど、今晩も頼むよ。コホッ!くれぐれも深追いはしないで、捕えられないと思ったらすぐに戻ってきなさい」
胸を押さえ苦しそうに咳き込む黒鷹に手を伸ばしかけるも、彼が来るなと手の平を向けるのでうつむき下がる。
鳶は、何度も荒い息を吐く主を悲しく見つめる。誰もが寝静まる真夜中、酷い咳は下手をすれば屋敷の外にまで聞こえる。
黒鷹は悪名高い鷹の翼の頭領ゆえ外から、新選組以外からも命を狙われることも多い。こんな日には襲われぬよう鳶や猫丸が見張りに立つ。
その咳の恐ろしさをよく知っているから。鳶は、命がけで曲者の侵入を防ぐことに勤める。彼の隣で看病し守るのは小紅だと、認めているから。
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