鷹の翼

最強を求めて

９P

「私は――魅堂黒鷹様の小姓、小紅ですから」

　それでも、小紅には自信があった。黒鷹を甘く見ているわけではない。ただ、鳶が言ったように今こうしてここにいるのは作戦を失敗してしまった新選組の紅花ではなく小紅。

　新選組に戻れるとも思っていないし戻るつもりもない。黒鷹に忠誠を誓い、解放してくれるのなら小姓としてずっとそばにいると決めた。

「はっ、言ってくれるじゃねぇか！てめぇの本性、もう隠さなくてもいいもんなぁ？いいぜ、その枷が外れたら祝いに勝負だ。楽しみにしてるぜ。女だからって手加減してやんねぇからな！」

　腰を落としながら刀に手をかけ、ブンッ！と一振り。小紅はよく刀を向けられるものだ。

　女でも容赦はしない。本当の小紅と戦える。彼女が本当はどれだけ戦えるのかを垣間見ているから。純粋に、その喜びに高遠の赤い瞳は獰猛に、ギラついている。

　高遠がやや興奮気味に刀を鞘に納めていると、小紅は何かを察知してハッと真顔を上げた。

　同時に、１人分の足音が近づいてきて扉が開け放たれると小さな何かが飛び込んできた。

「高遠さん、姉と妹だって名乗る女が来てるんだけど！お母さんが病気で、死にかけてるから最後だけでも会ってほしいって言ってるのにゃー……」

　飛び込んできた小さな何かはちょうど、振り向いた高遠の顔面にベチャッ！と着地？張り付いてしまった。

「トラさん、と猫丸君？」

　小紅には見覚えがあった。高遠の顔面に張り付いて「ニャア」と返事らしき鳴き声を上げた猫は、鷹の翼に来た初日に挨拶をした時に小紅の指を噛んだ猫だ。

　それにしても、顔を上手い具合に覆ってしまって高遠が仰け反ったままピタリと止まっている。

　その姿は滑稽すぎてつい吹き出してしまいそうになるが、彼の体からにじみ出る嫌な雰囲気が小紅の体を震え上がらせた。

　明らかにトラさんや猫丸に対する怒りではない。何という言葉で表せばいいのか、それは殺意でも憎悪でもない、黒い気のようなもの。

「トラさん、高遠さんが窒息――あーっ！トラさんに乱暴しないでっ！バカ高遠、略してバカ遠っ！！」

　駆け寄ってトラさんを引きはがそうと手を伸ばした猫丸の目の前で、高遠はトラさんの尻尾をムンズッとつかむと思いっきり投げ飛ばしてしまった。