183 / 386
最強を求めて
1P
しおりを挟む――それから数日後。牢での暮らしにも慣れてきた小紅の元に、とっても不機嫌な高遠がやってきた。
「飯だ、食えっ!食わねぇっつうんなら俺様が食うぞっ!クッソがっ!」
「いえいただきます。ありがとうございます。いつにも増してお元気そうですが、何かあったのですか?それにその傷……」
「あ゛ぁ?何でもねぇよ!ったく、何でよりによってこんな時に俺様がこいつの見張りなんか……クソッ!」
触らぬ神に祟りなし。そう悟った小紅はそれ以上声をかけることなく、乱暴に投げ込まれたおにぎりを大人しく口に運んだ。笹の葉に包まれているとはいえ、見事に変形している。
小紅の方を向くでも背を向けるでもない高遠は相当嫌なことがあったのか、ずっとイライライライラ。腕を組んで貧乏ゆすりをして。一体何があった?
鉄格子が揺れるほど非情に激しい貧乏ゆすりをしている彼の着物は所々が破けたり切れたりしていて、腕や足には包帯が巻かれている。それに右目にはクッキリ痣が見える。
これは派手に喧嘩でもしてボロ負けをしたか。そんなのはいつものことだろうが、それにしても虫の居所が悪い。
「…………っ、だぁぁぁぁぁーーっ!!なんっで何も聞かねぇんだよ!?もう少し粘って声をかけてみろやっ!」
「え、えぇっ!?ゴホッ!ゴホッゴホッ、コホッ……うぅ、コホッコホッ」
「おぉ悪い。これ飲んで……じゃなくてだなぁ!あーもういいっ!屋敷の修復は終わったし、猫丸は猫の世話ばっかだし、桜鬼は寝込んでやがる頭領につきっきりだし、弟は部屋に引きこもってやがるし、雪と鳶は朝から町へ出てやがる。暇で暇で死にそうだから町へ行きゃあ鬱陶しい野郎に絡まれてタコ殴りにしてやった。けどそいつ、名の知れた悪であとで仲間率いてきやがった。俺様1人に30人近くでかかってきやがってだなぁ……っ!!」
沈黙の時間は1分ともたなかった。突然、大爆発した高遠に驚きのあまり頬張っていたおにぎりを詰まらせかけた小紅は涙ながらに大噴火中の彼の話に耳を傾ける。
声をかけない方がいいと判断して静かに黙々と、姿勢よくおにぎりを食べる小紅の様子が気に入らなかったのか。チラッチラッと横目で様子を見てからの、大爆発。
派手な喧嘩をしたのは当たっていたか。悪い方に名の知れた組の1人をタコ殴りにしてしまった高遠にも非はあるが、報復で多勢に無勢とは。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
式神
夢人
歴史・時代
これは室町末期、すでに戦国時代が始まろうとしていた頃。賀茂家信行から隆盛した陰陽道も2代目に移り弟子の安部清明が活躍、賀茂家3代目光栄の時代には賀茂家は安倍家の陰に。その頃京の人外の地の地獄谷に信行の双子の一人のお婆が賀茂家の陰陽道を引き継いでいて朱雀と言う式神を育てていた。
黄金の檻の高貴な囚人
せりもも
歴史・時代
短編集。ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを囲む人々の、群像劇。
ナポレオンと、敗戦国オーストリアの皇女マリー・ルイーゼの間に生まれた、少年。彼は、父ナポレオンが没落すると、母の実家であるハプスブルク宮廷に引き取られた。やがて、母とも引き離され、一人、ウィーンに幽閉される。
仇敵ナポレオンの息子(だが彼は、オーストリア皇帝の孫だった)に戸惑う、周囲の人々。父への敵意から、懸命に自我を守ろうとする、幼いフランツ。しかしオーストリアには、敵ばかりではなかった……。
ナポレオンの絶頂期から、ウィーン3月革命までを描く。
※カクヨムさんで完結している「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」のスピンオフ短編集です
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
※星海社さんの座談会(2023.冬)で取り上げて頂いた作品は、こちらではありません。本編に含まれるミステリのひとつを抽出してまとめたもので、公開はしていません
https://sai-zen-sen.jp/works/extras/sfa037/01/01.html
※断りのない画像は、全て、wikiからのパブリック・ドメイン作品です
【完結】ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
空母鳳炎奮戦記
ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。
というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!
幕末群狼伝~時代を駆け抜けた若き長州侍たち
KASPIAN
歴史・時代
「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し。衆目駭然として敢えて正視する者なし、これ我が東行高杉君に非ずや」
明治四十二(一九〇九)年、伊藤博文はこの一文で始まる高杉晋作の碑文を、遂に完成させることに成功した。
晋作のかつての同志である井上馨や山県有朋、そして伊藤博文等が晋作の碑文の作成をすることを決意してから、まる二年の月日が流れていた。
碑文完成の報を聞きつけ、喜びのあまり伊藤の元に駆けつけた井上馨が碑文を全て読み終えると、長年の疑問であった晋作と伊藤の出会いについて尋ねて……
この小説は二十九歳の若さでこの世を去った高杉晋作の短くも濃い人生にスポットライトを当てつつも、久坂玄瑞や吉田松陰、桂小五郎、伊藤博文、吉田稔麿などの長州の志士達、さらには近藤勇や土方歳三といった幕府方の人物の活躍にもスポットをあてた群像劇です!
ライヒシュタット公の手紙
せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを巡る物語。
ハプスブルク家のプリンスでもある彼が、1歳年上の踊り子に手紙を? 付き人や親戚の少女、大公妃、果てはウィーンの町娘にいたるまで激震が走る。
カクヨムで完結済みの「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」を元にしています
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
なんか、あれですよね。ライヒシュタット公の恋人といったら、ゾフィー大公妃だけみたいで。
そんなことないです。ハンサム・デューク(英語ですけど)と呼ばれた彼は、あらゆる階層の人から人気がありました。
悔しいんで、そこんとこ、よろしくお願い致します。
なお、登場人物は記載のない限り実在の人物です
稲荷狐となまくら侍 -明治あやかし捕物帖-
山口 実徳
歴史・時代
時は明治9年、場所は横浜。
上野の山に名前を葬った元彰義隊士の若侍。流れ着いた横浜で、賊軍の汚名から身を隠し、遊郭の用心棒を務めていたが、廃刀令でクビになる。
その夜に出会った、祠が失われそうな稲荷狐コンコ。あやかし退治に誘われて、祠の霊力が込めたなまくら刀と、リュウという名を授けられる。
ふたりを支えるのは横浜発展の功労者にして易聖、高島嘉右衛門。易断によれば、文明開化の横浜を恐ろしいあやかしが襲うという。
文明開化を謳歌するあやかしに、上野戦争の恨みを抱く元新政府軍兵士もがコンコとリュウに襲いかかる。
恐ろしいあやかしの正体とは。
ふたりは、あやかしから横浜を守れるのか。
リュウは上野戦争の過去を断ち切れるのか。
そして、ふたりは陽のあたる場所に出られるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる