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浅葱色の想い
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しおりを挟む「…………まっすぐで、力強い目だ。僕は頭領なんてやってるけど、本当はすごく弱いんだ。だから、怖くて君を信じてあげられない。どうすれば信じてあげられるんだろうって必死に考えているんだけど……」
赤黒い2つの瞳を見つめ返す黒鷹は、力なく笑った。小紅が手を離したので刀を鞘に戻す。
背筋を伸ばし、ピシッと緊張感をもって正座していた小紅は足を崩した。痺れたらしい足を揉みながら、黒鷹に目も向けずに口を開く。
「まずは私のことなどお気になさらず。あなたは愛する弟の和鷹さんのことを気にかけてはどうですか?今はどんなに拒絶されても、今まで過ごしてきた時間は確かに兄弟だったのですから」
「和、か……そういう言葉は紅ちゃんの本心かな?だったら君は間者にするにはもったいないくらいのお人好し、優しすぎる女の子だね」
「小紅は、純粋に優しい女の子なんです。紅花はそんな小紅が羨ましかった、憧れていたのかもしれません」
「コホッコホッコホッ!あー、ここは冷えるね、風邪をひいちゃいそうだ。こんなところに女の子を何日も置いておくのはかわいそうだし、そろそろ君をどうするか考えないとね」
「こういう場所には馴れています。お風邪を召されないうちにお戻りください、皆さんが心配します」
もうこれ以上は話さない方がいいと、立ち上がった小紅は深々と頭を下げ奥の壁際に腰を下ろした。
あなたは私なんかよりも愛する弟と向き合うべきです。だから向かってください。会ってください。声をかけてください。触れてください。そして、抱きしめてあげてください。
淡々と、暗い影の中に身を隠して言った小紅。体がわずかに震えているのは冷たい床や鎖のせいか。
何を思ったのか、届くはずもないのに鉄格子の外側から手を伸ばす黒鷹。見つめるだけで動かない、何も言わない小紅を、同じく何も言うでもなくただ手を伸ばして見つめる。
奇妙な光景だ。無音の言葉が交わされているような、やがてフッと微笑んだ黒鷹は手を引っ込めて背を向けた。
「クスクス、容赦ないね。でも、ありがとう」
ヒラヒラと手を振って、そのまま牢を出て行ってしまった。
痛いです。手の平、まだ血が止まらない。手拭いを裂いて傷口に巻き付け、きつく縛る。痛い。痛いのは、生きているから。
遠ざかる足音と黒鷹の気配。小紅は冷たい壁に背を預け、ゆっくりと目を閉じた。
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