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浅葱色の想い
10P
しおりを挟む「鳶さんが生まれつき、時と場所を選べず突然眠ってしまう体質だというのは知っていました。それが原因で、大変優秀な忍だけれど忍の里を追放されたことも」
「さすが。前触れが一切ないのが厄介なんだよね、鳶が飼っている睡魔は。でも、わざわざ2人きりになってまでしてた話はそのことじゃないでしょ?」
「……はい。鳶さんは本当に優秀過ぎる忍で、とても恐ろしい方だと」
「悪いけど僕、結構耳が良いんだよね。君の本名が紅花だってこと、土方の小姓だってことは聞こえちゃったよ。それにまだ、隠していることがあるってこともね」
黒鷹は小紅から目を反らした。反らした目線は腰の刀に移り、ユルユルと持ち上げられた手が刀を握り、抜刀。
スッと音もなく突き出された刀身は鉄格子の隙間から牢の中、小紅の眼前に突き付けられた。殺意は、ない。
「もうさ、全部吐き出して楽になれば?任務も失敗しちゃったんだし、これ以上隠す必要なんてないでしょ?」
今、黒鷹は何を思っているのだろう?声はいつものように明るく言葉はハッキリしていて口元は笑みを浮かべているのに、きっと、心が抱いている感情は別のもの。
喪失感による絶望と諦め。和鷹の心が離れてしまったことと、そのすぐあとに小紅が新選組の間者だった事実の露見が原因だ。
そして和鷹や他の仲間達への罪悪感。和鷹の兄だと嘘を吐き続けてきた、あわよくばそのまま隠し通そうとしていたから。
和鷹のことといい小紅のことといい、連続的に精神への疲労が蓄積され深く考えることをやめてしまっている。
夜空色の瞳には、覇気がなかった。目の前の現実しか見ていない黒鷹はこれから先のことを前向きに考える余裕がない。
今の彼の気持ちが、任務失敗により捕らえられ絶望の淵に立たされている小紅にはよくわかる。
「鳶さんに言われました。土方さんの小姓である紅花は任務失敗により死んでしまったけれど、黒鷹様の小姓である小紅はまだ生きていると。そして気づかされました。まだ死にたくない、ここにいたい、私がここに送り込まれた本当の理由を知るまで死ぬわけにはいかない、と」
だから小紅は手を伸ばした。喉元に突き付けられた刀に両手を伸ばし、ゆっくりと見せつけるように刀身をつかむ。
そして押した。グッと黒鷹の方へ、手の平が切れて真っ赤な血がしたたり落ちるのも気にせず、笑顔の面をかぶっている彼に挑むようにまっすぐ見つめる。
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