鷹の翼

那月

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浅葱色の想い

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 言葉足らずというより、あえて明確に口にしていないような気がする。秘密を知っていてもなお口を閉ざす理由を、傍観し続ける理由を。

 問いただしたところで教えてはくれないだろう。今までの会話で、それを痛感した。鳶の意志は強い。

「今すぐ殺してやりたいほど恐ろしい方ですね。でも……その裏にどんな企みがあっても、今は諦めて大人しくしています。それに鳶さん、もう…………限界ですよね?」

 あなたにはかないませんね、と諦めて苦笑する小紅。紅花の気配が消えた。

 決して鳶を信用したわけではない、あくまで今は諦めているだけ。頑丈な鎖で繋がれているこの状況の小紅が優位に立っているはずもないのに、小紅はまだ、余裕。

 任務失敗のせいで全てを諦めているせいもあるだろうが。今は、この先の未来でどんなことが起こるのかを見てみたいと思っているのかもしれない。

 少しだけ、楽しそうなのだ。フッと口元に笑みを浮かべ、纏っている雰囲気が軽くなった。

 柔らかな微笑みを見せた小紅に、ほんのわずかだけ笑みを浮かべたような鳶の体が、グラリと傾いた。

「よく頑張ったね、鳶。部屋でゆっくり休んでていいよ」

「何でこない無茶したんや。眠気なんぞ溜め込んでしもうて、こんな……アホウやわ」

 優しい声をかけたのは黒鷹と、目を閉じて倒れ込んだ鳶を受け止めた雪。静かすぎてほとんど聞こえない寝息を立てて眠る鳶を、雪は軽々と抱き上げてしまった。

 普通は逆だろう。しかししばらくは目を覚ましそうにない鳶を叱りつつも悲しげに見つめる雪のまなざしには、夫婦の愛を感じる。

 見計らったような登場だが、小紅と鳶の会話は最後の部分しか聞いていないようで。雪は小紅にはほとんど目も向けずに愛する夫の心配をしている。

「すまん小紅ちゃん、こればっかりは堪忍やで。またあとでゆっくり話でもしよや。ほななー」

 自分よりも大きな、重い鳶を腕に抱いたまま雪は背を向けて去っていった。自分達の部屋で鳶を休ませるのだろう。

 残ったのは小紅と、小紅を優しい夜空色の瞳で見つめる黒鷹の2人だけ。

 鳶は、紅花の話をしたかった。そして自分が睡魔に負けて長い時間小紅を見張っていられないことをわかっていたから、雪に黒鷹を呼ばせた。

 鳶はわかっていたのかもしれない。黒鷹から小紅に、小紅から黒鷹に話があるのだと。

 だからほら、2人は見つめ合ったままどちらが先に口を開くのか見定めようとしている。先に口を開いたのは、小紅だった。

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