鷹の翼

那月

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浅葱色の想い

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 両手首には頑丈な腕輪がついていて、そこから壁に伸びる鎖はそんなに短くないのでこうして食事くらいなら自力でできる。

 破壊されていた外壁はとりあえず厚い木の板で補強されており、鎖さえ何とかすれば逃げようと思えば逃げられる。が、小紅は逃げようとは思わない。

「桜鬼さんのことは新選組のほとんどが知っていますが、他の方々の秘密は新選組の幹部くらいしか知らないんですよね。私も、鳶さんのことくらいしか知らないですし」

 桜鬼は小紅の前に鷹の翼に入ったので、しかも新選組に捕まっていたので桜樹のことは有名で記憶に新しい。

 しかし鳶から聞いた猫丸の話、それから和鷹の話は全く知らなかった。残り、高遠と雪と黒鷹のことは局長の近藤でも知らないのかもしれない。

 が、天才忍者と呼ばれる鳶は裏の世界を生きる忍でありながらそこそこ知られている。

 というのも鳶は、自身が抱える問題のせいで忍の里を追放、夜鷹に拾われ鷹の翼に加入することになったのだ。

 小紅の発言に鳶と雪は同時に振り向き、雪は鎖をビンッ!と引っ張って小紅の細い首をつかんだ。食べかけのおにぎりがポトリ、床に落ちてしまった。

「ひとの弱点知っとるからって優位になったつもりか?それともなんや、弱み握っとるからいつでも捕まえられる、今は泳がしとるって言うんか?」

「そっ……そ、んな……つも、は……っ、う……」

 女性とは思えないほどの力で、小紅の首を絞め上げる雪の右手。ほとんど身長が同じ小紅のかかとが浮き、もうじきつま先も床から離れるほど持ち上げられる。

 右手が気管を圧迫し左手で鎖を引っ張っている雪の茶色い瞳は、真っ赤になった小紅の苦しそうな顔を映す。

 眼光は刃物のように鋭く、顔からは笑みも明るい雰囲気も消え去り、低く抑えられた声からは怒りを通り越して殺気さえ感じる。

 だが生きようと本能的に抵抗するはずの小紅が抵抗しないので、しかも死ぬかもしれないというのに悲し気な目をする小紅に憤りを感じた雪は、我慢できずに吠えた。

 ドス黒いものが心の中に渦巻き、発狂した雪の右手が一気に小紅の首の骨を折る。誰もがそう思ったその瞬間、雪の視界が真っ暗になった。

「雪」

 一体何が起こったのか。突然雪の右手の力が抜けて解放された小紅は床に倒れ込み、激しく咳き込む。

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