鷹の翼

那月

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浅葱色の想い

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 ついに小紅は、土方から授かった命令を告白した。どうせもう新選組を除隊、死んだ者とされているだろうからと自棄になっているのかもしれない。

 今なら全てを話してくれる。そう信じて黒鷹は背を向けたまま、口元に笑みを浮かべて問いかけた。

 しかし黒鷹の期待もむなしく、小紅は力なく首を横に振る。小さく「ごめんなさい」と呟いた。

「私が鷹の翼の一員に、少しの間だけでもなることが目的。あの方との約束だということしか知らないんです」

 それは遠い日の約束。小紅の飼い主はあの方と約束を交わした。硬い絆で結ばれた2人は小紅のために、敵同士でありながら誰にも知られぬ約束を交わした。

 長い年月をかけて友情の約束は果たされ、その先にある未来が真っ暗い闇でも。小紅にとって辛い未来。きっと、あの方に託された人達が未来を変えてくれると信じて。

「あの方って、もしかして近藤局長?」

「いえ。局長から何度も聞かされました。私を娘として愛してくださっていたあの方――夜鷹様は、大馬鹿者だと。大嫌いだとおっしゃっていました」

 夜鷹と近藤といえば、鷹の翼と新選組が争うようになったきっかけの2人だ。

 過去に何があったのかは当人にしかわからないが、夜鷹のことを「大嫌いだ」と言うたびに近藤は小紅に背を向けていたそうだ。

 何度も何度も「大嫌いだ」と呟き、最後には背を向けたまま顔を上げて「わしより先に逝きおって、大馬鹿者が……」と声を震わせていた。

 小紅は、2人が交わした約束の詳しい内容を知らない。時が来れば小紅を鷹の翼の一員として過ごさせる。ということだけで、その理由までは近藤が教えてくれなかった。

「信じがたいね。紅ちゃんには悪いけど、敵の言葉を鵜呑みにするほど僕はお人好しじゃない。しばらく拘束させてもらうよ」

 そこでようやく、黒鷹が振り向いた。ゆっくり立ち上がり、小紅に向けられる表情は穏やかだった。

「はい」

 山崎の一件でまだ直ってない牢に入れられるのか、それとも即席で新しく作った座敷牢に繋いでおくのか。何にしても、小紅は逃げるつもりはない。

 任務に失敗し生きる理由を失った小紅は、生かしてくれている黒鷹に従うだけ。

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