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浅葱色の想い
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しおりを挟む「あーあ、和に全部話したんだね。気絶しなかった?あの子、あれで傷つきやすいから」
「向き合ってますよ、ちゃんと。それなりに落ち込んではいますが、黒鷹様が思っているほど和鷹さんの心は弱くありません」
「言ってくれるねぇ。僕と和との仲を引き裂けば崩れると思った?残念だけど、僕と和は元から仲が悪いんだよ。和が言っていたように、ね……」
小紅は黒鷹を見つけた。彼が1人になるならここしかないと、思い切って足を運んでみて正解だった。
1人で来るのは初めて。夜鷹の墓の前でしゃがみ込んでいる彼は振り向くことなく、背後に立つ小紅に手をヒラヒラと振る。
そばへ行こうと1歩踏み出した小紅に「来ないでよ」と言ったのだ。突き放すよりもまず、敵に背中を向けるのをどうにかしろよ。
素直に1歩下がって口を閉じたまま動かなくなったのはいいが、どうにも小紅は辛そうに小さくなったように見える彼の背中を見つめる。
かける言葉が見つからない。声をかける必要はない、以前に黒鷹を探す必要なんてなかった。
なのに黒鷹の姿を探すのは、彼のそばにいるのは。なんとなくもう、自分でもわかっていた。自分の愚かさに、小紅は自分を殴りたい。
殴ったら、まず黒鷹がびっくりしてあたふたするんだろう。「ど、どうしたのっ?」と慌てて、でも触れられずにいる手を宙に泳がせて。その様に、小紅は笑みを浮かべるのだ。
「――和とはもう、以前のようになれないのかな……」
黒鷹の弱々しい声が聞こえたのは、小紅がここにきてしばらくしてからだった。泣いているのか、声が震えている。
「それは、お2人次第だと思います。ただ私は、鷹の翼に潜入して一員として過ごせ。何をしていたのかを定期的に報告しろとだけしか言われていませんから」
「過ごした内容を話すだけ?隙をついて爆弾を仕掛けろとか、誰かを捕らえろとか、僕の首を取れとかじゃなくて?」
「逆です。自分から皆さんのことを調べようとか行動を起こすことは禁じられていました。だから本当に、私としては新選組の間者という意識はなかったんです」
「へぇ、それが本当なら不思議な話だ。じゃあ、なんで今、小紅ちゃんを鷹の翼に入れたんだい?何か、今じゃなきゃならなかった目的ぐらいはあるでしょ?」
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