鷹の翼

那月

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真実の嘘

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 もしその話が本当なら、黒鷹と夜鷹がずっと知りたかった情報だ。何が何でも小紅から情報を引き出すに違いない。弟の、和鷹のために。

「全て吐け。新選組のことも紅ちゃんのことも、それから和鷹のことも。知っていることを全て吐き出すまで、僕は君を離さない」

 そう言って黒鷹は小紅の手をつかむと背を向けて歩き出した。すぐに鳶がついて来ようとしたが彼は、1度足を止めて「大丈夫、ついて来ないで」と他の者達に手を振る。

 本当は結構腕の立つ、敵である小紅と2人きりで一体どこへ行こうというのか?

 鳶達の心配をよそに、黒鷹はどんどん歩いていく。方向的に牢だろうか?あそこは山崎の一件があってからまだ直っておらず壁がないので牢としては使えないはずだが。

 仲間の姿が見えなくなった今なら。体調不良で弱っている黒鷹なんて、全力で手を振り払って蹴り飛ばせば逃げられる。けれど小紅はそうしなかった。

 逃げられない。なぜかそう思ってしまう。理由はわからないが、絶対に逃げられない気がして大人しく連行される小紅。

 黙ったまま何も言わない黒鷹の背中を、小紅は静かに見つめて足を動かす。自分の失敗を噛みしめ、これからどうなるのかを考えないようひたすら見つめた。

「……あ……」

 途中でわかった。黒鷹がどこに向かっているのか。1度、彼に連れてきてもらった場所。

 小紅のことを信じているからこの場所を選んだ。小紅が素直に話せるように、この場所を選んだ。

 屋敷の裏に回って身をかがめ、床下をくぐっていった先にあるその場所。黒鷹が最も大切にしている場所。先代の鷹の翼の頭領、小紅の父親の夜鷹の墓。

「卑怯ですね。夜鷹様の前でなら心を許して、素直にしゃべるとでも思いましたか?残念ながら私は、そんな簡単に開く心なんて持っていないのです。私に心なんて、最初から、ない……」

 望まれず生まれてしまった小紅。育ての母親も本物の父親も苦しめてしまう小紅はいつしか、人形のようになっていた。

 周りの大人のために、まるで心があるように状況に応じて振る舞う。生きるためにそうしてきた。本当は何も感じてなんかいないのに。

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