162 / 386
真実の嘘
8P
しおりを挟む小紅を選んだのは単に、夜鷹の娘だからだろう。この様子だと小紅が新選組に入隊したのは最近というわけでもなさそうで、のちに間者として使うために育ててきたのか。
間者として潜入していて寝返る可能性も考えていただろう。何といっても小紅は先代の鷹の翼の頭領、夜鷹の娘なのだから。
今思えば、小紅の話にあった、夜鷹に娘がいるのが新選組の近藤の耳に入って呼び出された時。夜鷹が娘とずっと暮らすことができないのならと、近藤が引き取ったのかもしれない。
人質に。夜鷹が率いる鷹の翼が過激になった時、人質を突き出せるように。それをわかったうえで、夜鷹は近藤に預けた。
小紅が自分と暮らそうとすれば衣食住は保証できない。何より、義賊と言えど悪の組織のもとで生活させたくなかった。誠を掲げる新選組にいれば、その方が小紅にとって幸せが訪れるはずだと。
小紅の気持ちなんて、何も考えていなかった。当時はまだ小さかった、何も知らないからと、知らないままでと思ってやったことがのちにどう影響するかなんて考えていなかった。
「私をどんな拷問にかけても何も話しません。話すことは何もありませんから。私をエサに新選組の方をおびき寄せようとしても、私が失敗した場合は私は新選組から除隊されるようになっているので誰も来ませんよ」
小紅はひそかに、1番小さな特殊なネズミを使いに出していた。
赤いひもを首に巻いた黒いネズミ。小紅が使役しているネズミの中で最速で、今頃は新選組の屯所のある場所に辿りついていることだろう。
「あぁ残念。さらし者にでもして、あわよくば近藤局長でもおびき寄せてやろうと思っていたのに。今度こそ、あの首をいただこうと思っていたのになぁ」
ニコリと笑ってみせる黒鷹は、夜空色の瞳は一切笑ってなどいない。わずかな怒りと、ほとんどの悲しみと、そして寂しさが入り混じった瞳。
本気だ。本気で、必死で考えを巡らせる。小紅は言った。和鷹のことを『まさか、東岡さんの隠し子だったなんて』と。
誰も知らない和鷹の失った過去を、小紅は知っている。それだけは聞き出さなければ。
東岡とはたぶん、以前新選組の隊士だった男のことだ。問題を起こしたりして今は色々あって新選組にはいないが、そんな東岡の、それも隠し子だとか穏やかではない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
壬生狼の戦姫
天羽ヒフミ
歴史・時代
──曰く、新撰組には「壬生狼の戦姫」と言われるほどの強い女性がいたと言う。
土方歳三には最期まで想いを告げられなかった許嫁がいた。名を君菊。幼馴染であり、歳三の良き理解者であった。だが彼女は喧嘩がとんでもなく強く美しい女性だった。そんな彼女にはある秘密があって──?
激動の時代、誠を貫いた新撰組の歴史と土方歳三の愛と人生、そして君菊の人生を描いたおはなし。
参考・引用文献
土方歳三 新撰組の組織者<増補新版>新撰組結成150年
図説 新撰組 横田淳
新撰組・池田屋事件顛末記 冨成博
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる