鷹の翼

那月

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真実の嘘

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「あの時、黒鷹様を置いて逃げてしまったからですか?」

「さて、どうだろうねぇ?」

 屋敷の中にいるのが臥せっている黒鷹と、いまだに敵味方の判断がつかない小紅だけというわけはないはずだ。それにしても静か。不気味なほどに。

「高遠さんや和鷹さんは私のことを新選組の間者だと決めつけていますが。そもそも、鷹の翼の先代頭領の夜鷹様の娘である私を、新選組の方々が仲間に招き入れると思いますか?」

「さて、どうだろうねぇ?」

 たしかに。改めて落ち着いて考えてみればそうだ。特に気難しい、和鷹のような性格の土方ならなおのこと、小紅を仲間になんて考えづらい。

「もしも私が間者ではないと確定したら、仲間だと認めてくださいますか?」

「さて、どうだろうねぇ?」

 疑いが晴れても認められないのか。さっきから返事は「さて、どうだろうねぇ?」ばっかり。もう4回目だ。声の調子も全く同じ。

 一体何を考えている?目を閉じて口元に笑みを浮かべたまま、同じセリフばかりの黒鷹をジッと見つめ、口を閉ざしてしまった小紅。

 いい加減、無機質な適当な返事にも呆れてしまったのだろう。と思いきや、そうではないらしい。

 静かな彼の様子に完全に眠ったと思ったのか「おやすみなさい」と呟いて顔を上げる。首だけ動かして、部屋の中を見渡す。

 何も変わっていない、と思う。2日3日で部屋の物が変わるものでもないと思うが、昨日は夜中中屋敷を空けていた。

 変化がないということは少なくとも、黒鷹の部屋には新選組など他者が出入りしていないということ。もしくは、気付かないように上手く痕跡を消されているか。

 部屋の持ち主の黒鷹が何も言わない、落ち着いているのであれば大丈夫だろう。彼が隠していなければ、だが。

 シンと静まり返る部屋、屋敷。聞こえるのは黒鷹の静かな寝息だけ。あとどれくらい寝るのだろうか?その間ずっと、小紅はここで静かに時間が過ぎるのを待つのだろうか?

「……あの時、猫丸君の手を振り払ってでも留まっていれば、こんなことにはならなかったのかな……」

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