鷹の翼

那月

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逢瀬

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 この影はいわゆる、鷹の翼に潜入している新選組の間者。土方から“ハナ”と呼ばれている影は話し終わると、スクッと立ち上がって障子に手を伸ばす。用事は済んだ。

「もう行くのか。ここへ報告に来るのが難しいんなら使いを寄こしてもいいんだぞ?」

「そうしたいのはやまやまなのですが、なにぶん屋敷には常に多くの猫がいます。なので私の使いは身の危険を感じて隠れてしまって……」

「あー、猫丸の。見つかれば色んな意味で絶体絶命だな。お前が間者だとバレちまうし、使いは食われちまうだろうし」

 ハナは使いに小さなネズミを数匹飼っている。手紙を持たせて走らせれば危険を冒してまでわざわざ報告に来る必要もない。

 だが鷹の翼には大量の猫を使役している猫丸がいる。屋敷はいつも猫だらけ。猫達は猫丸の分身と言っても過言ではないほど、ハナをよく見ている。不審な動きをすれば猫が猫丸に報告してしまう。

 それに近くにネズミを忍び込ませていればたちまち、猫達の栄養と化するだろう。手紙を持たせる以前に、ネズミ達が猫を怖がって屋敷の近くにも寄ってこない。

 忍が使役する犬を忍犬と言うなら、ハナのネズミは忍ネズミ。特別な訓練を受け躾けられているとはいえ、命には代えられない。

「申し訳ありません」

「いや、いい。しばらくは指示があるまで待機していろ。それからハナ、潜入して日が経つが………………あまり、深く潜るなよ?呑まれちまうぞ。お前は優しいからな」

 それまでずっと無表情だったハナは初めて、驚きの表情を見せた。

 障子に手をかけたまま顔だけ振り向いた状態で目を見開き、きっと「鬼の副長なんて呼ばれているあなた様が私なんかの心配を!?」とか考えているんだろう。

 綺麗に顔に出ているぞ。読み取ってしまったらしい土方の頭に角が生え始めたようだ。

「ご心配、感謝いたします。ですが私は、私なりに彼らとは一線を引いております。彼らと馴れ合い心の奥に踏み入ることはあっても、こちら側には踏み入れさせません。何が何でも死守します。もしもそれができなくなったらその時は、この命を捨てます」

 土方は鷹の翼の情報を必要としている。新選組と鷹の翼が長年争い続けてきた理由を知るために。

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