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逢瀬
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しおりを挟む某時刻。1つの影が音も気配もなく新選組の屯所内に侵入。
夜が明け、屯所のあちこちに隊士がいる中、影は誰にも気づかれることなくまっすぐ1つの部屋の前で立ち止まった。
「……ハナか。なかなか戻ってこねぇから心配したぞ。さっさと入れ」
「失礼いたします。申し訳ありません。四六時中監視がついており、なかなか抜け出せられませんでした。今、他の者達だけで何か話し合っているようで――」
「んなっ!?お前を疑って仲間はずれにしてんだよ!さっさと戻って、何の話をしてんのか聞いてこい!」
「い、いえ。おおよそ、昨晩の奇襲の時の話のようです。去り際、局長と何かあった時の話のようだったので、その場にいらっしゃった土方様にお伺いした方が早いと思いまして」
「なんだ、あのことか。俺もあの時は頭に血が上っちまって、まぁ正直あんまり覚えてねぇんだが――」
一切の物音もなく障子を開け部屋に足を踏み入れた影は部屋の主、土方の向かいに腰を下ろすと畳に両手をつけ深々と頭を下げた。
今の土方の怒号で、近くにいる隊士に彼が誰かと対談中だと一気にバレたな。せっかくの影の努力が水の泡だ。
鷹の翼の人達がなぜわざわざ自分を外して話をしているのかなんて、影にだってわかっている。自分はそんなバカではないと、溜め息を吐いた。
もちろん心の中で。ついでに、そりゃああんなに大噴火して大暴れしていれば記憶もなくなる。バカは土方の方だと、毒づいた。もちろん、心の中で。
土方は誰かに手紙を書いていたのか、筆を置いて影の方に向き直ると時々眉間にシワを寄せて頭を押さえながら昨晩のことを影に話した。
話の間、影は一言も口を挟むこともなければピクリとも動くことはなく、背筋をピンと伸ばして静かに聞いていた。
土方の話が終われば何を言うわけでもなくただ「そうですか」とだけ呟く。そしてひと呼吸つくと今度は影が話を始める。
今回は相当時間がないようで、要点だけかいつまんで話したため土方は腕組みをしたまま、難しい顔で黙り込んでしまった。
影からの情報は土方達新選組の、ひいては鷹の翼の未来を左右する、かもしれないほどの力がある。
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