鷹の翼

きょうだい

９P

　それは、和鷹は実は１３年前に頭から血を流し川を流れていたところを夜鷹が拾った子供だから。しかも、頭の怪我のせいで一切の記憶を失っていたのだ。

　一体彼の身に何が起こったのか？丸１年間は目を覚まさなかったのだが当然、夜鷹と黒鷹は交代で和鷹の家族を探した。

　それでもなんの手掛かりもなく、決意した。夜鷹は黒鷹の次に拾った子、黒鷹の弟として“和鷹”の名を与えた。のちに結成する“鷹の翼”の一員にするために。

　わざわざ兄弟にしなくてもいいんじゃないか？夜鷹も最初はそう思った。しかし黒鷹が言い出したのだ。

　眠り続ける和鷹を見つめ「この子は今生まれた僕の弟。僕達の家族だよ」と。もしかすると、ただ単に弟が欲しかったのかもしれない。

　けれど当時１１歳の黒鷹は何か悟ったようだった。瀕死の重傷を負うほどの危機迫ることがあった、そんな彼を探すこともしない家族。捨てられたのだ。

　自分に似たものを感じたのかもしれない。放ってはおけなかった。家族になりたかった。捨てられた彼のために、自分の寂しさを紛らわせるために。

「頭領、今の本当なんやな。…………俺っち、何も聞かんかったことにするで？何か深い理由があって黙っとったんやろ？」

　近藤の突然の暴露に、土方も驚きのあまり正気に戻って思考停止。ハッと追いかけようとした土方を止める近藤が、不敵に笑った。新選組の副長の土方さえも知らなかった秘密。

　門を抜けたところで雪が心配して声をかけるが、黒鷹は静かに首を横に振った。腕の中で眠る和鷹を見つめ、辛そうに顔をゆがめる。

「全ては、わがままな僕の責任だから。ちゃんと皆にも打ち明けるよ、本当のことを。和はしばらく口もきいてくれそうにないけど」

　黒鷹は向き合うことを決めた。和鷹と、己が吐き続けてきた嘘と。

　いつかは明かされる、それが今日だっただけ。本当は墓場まで持っていきたかったが、１３年間も隠し通すことができたのはそれだけ、２人が本物の兄弟のようだったから。

　だが和鷹はどうだろう？ずっと、１３年間も本物の兄弟だと信じて疑わなかったのに。突然、本当は血のつながりもない赤の他人だと言われて。

　これで冷静になれればそれはもう“和鷹”ではない。