鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
148 / 386
きょうだい

7P

しおりを挟む

 どんどん速くなる黒鷹の斬撃に、近藤はついてきている。口元に笑みを浮かべる余裕さえ見せて。完全に見切って、黒鷹の右腕を斬りつけ刀を叩き落とす。

 瞬間、和鷹の中で何かが弾けた。無意識に握った地面の土を近藤めがけ投げつけ、よろけつつも足払いをかけた。

 無意識とはいえ狙い通り目に土が入り、近藤は体勢を崩して転倒。この好機を黒鷹が逃すはずがない。

 ダンッ!と1歩踏み出しながら左手で握る和鷹の刀を振り下ろし、近藤の首に叩き込む――寸前、ピタリと止まった。

「あ、あ、兄、上……っ」

「ほう、よく止められたな。今の勢いならそのまま、この和鷹の肩を叩き壊しておっても不思議ではなかったのだがな」

 目は見えていないはずだ。なのに近藤は、転倒しながらガッ!と和鷹の首をつかんで前に突き出したのだ。

 和鷹の刀は和鷹の首に触れるギリギリで制止、全力の一撃を無理やり止めたため左肩を痛めた黒鷹は震える右手で自分の刀を拾い再び、近藤の腕を狙って斬りかかる。

 必死に抑えているドス黒い殺気が黒鷹の体中から滲み出ている。顔からは笑顔が消え失せ、怒りに静かに燃える冷たい鬼がそこにいた。

 危うく兄に殺されるところだった和鷹。恐怖に顔が真っ青だ。そうさせた近藤に憎悪で襲いかかる黒鷹の姿を、和鷹は忘れることができない。

 自分はこの魅堂黒鷹の弟、家族なんだと思い知った。今まで見たことのない、まるで別人の、怒れる鬼神。

「もう夜が明ける。今回は見逃すゆえ、ここまでにしようではないか。トシ、あとで愚痴を聞いてやるから正気に戻って手を引け」

 盾にしていた和鷹を黒鷹に突き飛ばした近藤は体をひねって避けると空を見上げ、疲れからかやや勢いが落ちた土方を振り返る。

 余裕を見せつけている。この程度では自分達には勝てないと、黒鷹の体と心に教え込ませた。

 明るくなりつつある空を仰ぎ、苦虫を噛み潰したような顔の黒鷹は和鷹の腕を自分の肩に回す。雪を呼び戻し、土方の元へ歩いていく近藤の背を睨み付けることしかできない。

 返す言葉もない。また、見逃してもらった。鷹の翼と新選組が戦闘になるといつも、時間が来て新選組が引くのだ。

 鷹の翼が新選組に“勝った”という記録は、ただの1度もない。それほど、力の差は歴然。今の鷹の翼では新選組には勝てない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

池田恒興

竹井ゴールド
歴史・時代
 織田信長の乳兄弟の池田恒興の生涯の名場面だけを描く。  独断と偏見と創作、年齢不詳は都合良く解釈がかなりあります。  温かい眼で見守って下さい。  不定期掲載です。

【完結】ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

あの日、自遊長屋にて

灰色テッポ
歴史・時代
 幕末の江戸の片隅で、好まざる仕事をしながら暮らす相楽遼之進。彼は今日も酒臭いため息を吐いて、独り言の様に愚痴を云う。  かつては天才剣士として誇りある武士であったこの男が、生活に疲れたつまらない浪人者に成り果てたのは何時からだったか。  わたしが妻を死なせてしまった様なものだ────  貧しく苦労の絶えない浪人生活の中で、病弱だった妻を逝かせてしまった。その悔恨が相楽の胸を締め付ける。  だがせめて忘れ形見の幼い娘の前では笑顔でありたい……自遊長屋にて暮らす父と娘、二人は貧しい住人たちと共に今日も助け合いながら生きていた。  世話焼きな町娘のお花、一本気な錺り職人の夜吉、明けっ広げな棒手振の八助。他にも沢山の住人たち。  迷い苦しむときの方が多くとも、大切なものからは目を逸らしてはならないと──ただ愚直なまでの彼らに相楽は心を寄せ、彼らもまた相楽を思い遣る。  ある日、相楽の幸せを願った住人は相楽に寺子屋の師匠になってもらおうと計画するのだが……  そんな誰もが一生懸命に生きる日々のなか、相楽に思いもよらない凶事が降りかかるのであった──── ◆全24話

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

朱元璋

片山洋一
歴史・時代
明を建国した太祖洪武帝・朱元璋と、その妻・馬皇后の物語。 紅巾の乱から始まる動乱の中、朱元璋と馬皇后・鈴陶の波乱に満ちた物語。全二十話。

悪魔サマエルが蘇る時…

ゆきもと けい
SF
ひ弱でずっとイジメられている主人公。又今日もいじめられている。必死に助けを求めた時、本人も知らない能力が明らかになった。そして彼の本性は…彼が最後に望んだ事とは…

処理中です...