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きょうだい
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しおりを挟むどんどん速くなる黒鷹の斬撃に、近藤はついてきている。口元に笑みを浮かべる余裕さえ見せて。完全に見切って、黒鷹の右腕を斬りつけ刀を叩き落とす。
瞬間、和鷹の中で何かが弾けた。無意識に握った地面の土を近藤めがけ投げつけ、よろけつつも足払いをかけた。
無意識とはいえ狙い通り目に土が入り、近藤は体勢を崩して転倒。この好機を黒鷹が逃すはずがない。
ダンッ!と1歩踏み出しながら左手で握る和鷹の刀を振り下ろし、近藤の首に叩き込む――寸前、ピタリと止まった。
「あ、あ、兄、上……っ」
「ほう、よく止められたな。今の勢いならそのまま、この和鷹の肩を叩き壊しておっても不思議ではなかったのだがな」
目は見えていないはずだ。なのに近藤は、転倒しながらガッ!と和鷹の首をつかんで前に突き出したのだ。
和鷹の刀は和鷹の首に触れるギリギリで制止、全力の一撃を無理やり止めたため左肩を痛めた黒鷹は震える右手で自分の刀を拾い再び、近藤の腕を狙って斬りかかる。
必死に抑えているドス黒い殺気が黒鷹の体中から滲み出ている。顔からは笑顔が消え失せ、怒りに静かに燃える冷たい鬼がそこにいた。
危うく兄に殺されるところだった和鷹。恐怖に顔が真っ青だ。そうさせた近藤に憎悪で襲いかかる黒鷹の姿を、和鷹は忘れることができない。
自分はこの魅堂黒鷹の弟、家族なんだと思い知った。今まで見たことのない、まるで別人の、怒れる鬼神。
「もう夜が明ける。今回は見逃すゆえ、ここまでにしようではないか。トシ、あとで愚痴を聞いてやるから正気に戻って手を引け」
盾にしていた和鷹を黒鷹に突き飛ばした近藤は体をひねって避けると空を見上げ、疲れからかやや勢いが落ちた土方を振り返る。
余裕を見せつけている。この程度では自分達には勝てないと、黒鷹の体と心に教え込ませた。
明るくなりつつある空を仰ぎ、苦虫を噛み潰したような顔の黒鷹は和鷹の腕を自分の肩に回す。雪を呼び戻し、土方の元へ歩いていく近藤の背を睨み付けることしかできない。
返す言葉もない。また、見逃してもらった。鷹の翼と新選組が戦闘になるといつも、時間が来て新選組が引くのだ。
鷹の翼が新選組に“勝った”という記録は、ただの1度もない。それほど、力の差は歴然。今の鷹の翼では新選組には勝てない。
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