鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
146 / 386
きょうだい

5P

しおりを挟む

 一気に狂暴になった土方の攻撃に、殺気に鳶は雪と共に大きく跳び下がる。しかし和鷹はこれを好機と読んで踏み出す。

 攻撃の流れを読み、素早くシュンッと刀を突き出せばほんのわずかに遅れ、土方の右肩を斬りつけることしかできない。

 立場も性格も、似た者同士。キレ具合は高遠にも匹敵するほどだが、これでも土方は武士。瞬時に振り返りながら刀を振り上げ、和鷹の脇腹を斬りつけた。

「下がれ和!お前達は先に、丸は紅ちゃんを連れて撤退しろ、命令だっ!!」

 鷹の翼の頭領の叫び声。鳶は離れた場所にいる高遠と桜樹に伝令に姿を消し、雪は負傷した和鷹に手を貸そうと駆け、猫丸は小紅の手を取って走り出す。

 殺す気はなくても、帰す気はない新選組。今回も新選組に軍配が上がった。早く逃げなければ、鷹の翼はまだ終わるわけにはいかない。

 黒鷹は頭領だから。家族も同然の仲間の命を守る義務がある。

 黒鷹は頭領だから。家族も同然の仲間は彼の命を守りたいと願う。病気とは違って、守れる命だから。

 心の中ではこの場に残って先に黒鷹を逃がしたいと思っている。でも、彼らは黒鷹を心から信頼しているから。だから背を預けて駆け出すんだ。

 和鷹以外は。

 兄弟だから。兄である黒鷹を嫌ってはいても共に戦うことを選ぶ。たとえ黒鷹から「何をしている、早く逃げろ!」と怒号が飛んできても、刀を構え直し怒れる暴君と化している土方と対峙する。

 黒鷹と同じ夜空色の瞳は真剣だ。その瞳に強い想いを見た雪は諦めて撤退しようとした瞬間、大量の血しぶきをまき散らしながら和鷹が吹っ飛んだのを見た。

「逃がすか、くそがぁぁぁッ!!」

 もはや怒りの化身か。目にも留まらぬ速さで袈裟懸けに斬りつけた和鷹を、力任せに蹴り飛ばしたのだ。

 しかもその蹴り飛ばした先には静かな攻防戦を繰り広げている黒鷹と近藤がいた。これにはさすがに近藤も驚いて黒鷹の刀から手を離し飛び退く。

 さらに追い打ちをかけようとした土方に怪力自慢の雪が飛びかかり、何とか食い止めてくれるが和鷹は重症。

「あ、兄上……先に逃げ、ろ……」

 脇腹と胸から血を流す和鷹はヨロヨロと立ち上がり、黒鷹の肩をつかんで引き下がらせる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―

馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。 新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。 武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。 ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。 否、ここで滅ぶわけにはいかない。 士魂は花と咲き、決して散らない。 冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。 あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。 schedule 公開:2019.4.1 連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...