142 / 386
きょうだい
1P
しおりを挟む目の前に人影が1つ。黒鷹に親しげに話しかけたその人物はゆっくり足を踏み出し、暗がりから姿を現す。
「賊のお頭を潰すのは正義のお頭?僕達の悪戯なんかに出てきちゃダメでしょ、近藤さん。ご丁寧に、向こうには鬼の副長なんかし向けちゃってさ」
真っ黒い着物に身を包んだ男。後ろに撫でつけられた濃い灰色の髪は男らしく勇ましく見える。黒鷹をまっすぐ、柔らかく見据える濃い黄色い瞳はけれど、しっかり怒りがこもっている。
「お前達が誰を相手にしているのか、改めて教えてやろうと思ってな。命惜しくば大人しく縛につけ、黒鷹」
背後の和鷹の焦った怒号が近づいてくる。目の前の男が1歩、また1歩と足を踏み出す。黒鷹と小紅は、ジリジリと後退していく。
挟み撃ちだ。いつだ?いつ気づかれた?
特攻の高遠と桜樹を足止めさせ、それに気づいた黒鷹が逃げるのを読んで待ちかまえるなど、侵入してすぐ気づかなければここまで早くは対処できない。
偶然、局長と副長、隊長達が起きていて広間で話し合いをしていたのならば話は別だが。
腰に下げた刀に手を触れていないのに、一瞬でも気を抜けばやられると感じる威圧。この男こそ、新選組の1番上に立つ男。
新選組局長、近藤勇だ。34歳にして新選組の頂点に君臨する彼は天然理心流の使い手。
性格はとてもよろしく、隊士達のことは副長に預けて近藤は上との対談に勤めている。もう何度も鷹の翼の討伐を言い渡されているが、そのたびに首を横に振って上手い具合に言いくるめている。
鷹の翼を捕らえたくないわけではない。そうではないが、何か特別な思い入れがあるのか「まだ待ってほしい」と頭を下げるほど。
まぁつまり、こうして鷹の翼が今も自由に人の屋敷に押し入って派手な悪戯をできるのも、近藤のおかげと言っても過言ではない。
黒鷹にとっては宿敵。黒鷹の兄、父親的存在の夜鷹が長年争ってきた相手だから。争い続けてきた理由も聞かされていないのだけれど、死んだ夜鷹に代わって近藤を憎む。
「……と、その子が噂の新しい女の子かな?珍しく黒鷹が世話を焼いているから、皆、奥方候補だと思っているようだが」
「うちにまともな女の子が入ってきてそんなに騒ぐ?一躍有名人だね、紅ちゃん」
「お、奥方様候補の部分を全力で否定してください!私はただの、黒鷹様の小姓ですから。居候も同然なんですからっ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
連合艦隊司令長官、井上成美
ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。
毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!
悪魔サマエルが蘇る時…
ゆきもと けい
SF
ひ弱でずっとイジメられている主人公。又今日もいじめられている。必死に助けを求めた時、本人も知らない能力が明らかになった。そして彼の本性は…彼が最後に望んだ事とは…
がむしゃら三兄弟 第三部・長尾隼人正一勝編
林 本丸
歴史・時代
がむしゃら三兄弟の最終章・第三部です。
話の連続性がございますので、まだご覧になっておられない方は、ぜひ、第一部、第二部をお読みいただいてから、この第三部をご覧になってください。
お願い申しあげます。
山路三兄弟の末弟、長尾一勝の生涯にどうぞ、お付き合いください。
(タイトルの絵は、AIで作成いたしました)
崩落!~生存者が語る永代橋崩落事故のルポルタージュ~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
江戸時代、文化四(1807)年に発生した「永代橋崩落事故」、一説には1,400人を超える死者を出したという未曽有の大参事を、生存者へのインタビュー等、現代の「ルポルタージュ手法」で脚色したものです。
原典は、滝沢(曲亭)馬琴が編纂した天保三(1832)年刊の「兎園小説 余禄」に収録されている「深川八幡宮例祭の日、永代橋を蹴落して人多く死せし事」です。
「架空」のルポルタージュですが、大筋は馬琴が集めた資料を基にしていますので真実といっていいでしょう。
滝沢(曲亭)馬琴・山崎美成らが中心となって発足した、珍談、奇談を収集する会「兎園会」
その断絶(けんどん論争による)後に、馬琴が個人的に収集した話を編纂したのが「兎園小説 余禄」となります。
余禄には、この永代橋崩落事故や、ねずみ小僧次郎吉の話等、様々な話が納められており、馬琴の旺盛な知識欲がうかがえます。
あの日、自遊長屋にて
灰色テッポ
歴史・時代
幕末の江戸の片隅で、好まざる仕事をしながら暮らす相楽遼之進。彼は今日も酒臭いため息を吐いて、独り言の様に愚痴を云う。
かつては天才剣士として誇りある武士であったこの男が、生活に疲れたつまらない浪人者に成り果てたのは何時からだったか。
わたしが妻を死なせてしまった様なものだ────
貧しく苦労の絶えない浪人生活の中で、病弱だった妻を逝かせてしまった。その悔恨が相楽の胸を締め付ける。
だがせめて忘れ形見の幼い娘の前では笑顔でありたい……自遊長屋にて暮らす父と娘、二人は貧しい住人たちと共に今日も助け合いながら生きていた。
世話焼きな町娘のお花、一本気な錺り職人の夜吉、明けっ広げな棒手振の八助。他にも沢山の住人たち。
迷い苦しむときの方が多くとも、大切なものからは目を逸らしてはならないと──ただ愚直なまでの彼らに相楽は心を寄せ、彼らもまた相楽を思い遣る。
ある日、相楽の幸せを願った住人は相楽に寺子屋の師匠になってもらおうと計画するのだが……
そんな誰もが一生懸命に生きる日々のなか、相楽に思いもよらない凶事が降りかかるのであった────
◆全24話
【完結】ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる