鷹の翼

那月

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きょうだい

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 目の前に人影が1つ。黒鷹に親しげに話しかけたその人物はゆっくり足を踏み出し、暗がりから姿を現す。

「賊のお頭を潰すのは正義のお頭?僕達の悪戯なんかに出てきちゃダメでしょ、近藤さん。ご丁寧に、向こうには鬼の副長なんかし向けちゃってさ」

 真っ黒い着物に身を包んだ男。後ろに撫でつけられた濃い灰色の髪は男らしく勇ましく見える。黒鷹をまっすぐ、柔らかく見据える濃い黄色い瞳はけれど、しっかり怒りがこもっている。

「お前達が誰を相手にしているのか、改めて教えてやろうと思ってな。命惜しくば大人しく縛につけ、黒鷹」

 背後の和鷹の焦った怒号が近づいてくる。目の前の男が1歩、また1歩と足を踏み出す。黒鷹と小紅は、ジリジリと後退していく。

 挟み撃ちだ。いつだ?いつ気づかれた?

 特攻の高遠と桜樹を足止めさせ、それに気づいた黒鷹が逃げるのを読んで待ちかまえるなど、侵入してすぐ気づかなければここまで早くは対処できない。

 偶然、局長と副長、隊長達が起きていて広間で話し合いをしていたのならば話は別だが。

 腰に下げた刀に手を触れていないのに、一瞬でも気を抜けばやられると感じる威圧。この男こそ、新選組の1番上に立つ男。

 新選組局長、近藤勇だ。34歳にして新選組の頂点に君臨する彼は天然理心流の使い手。

 性格はとてもよろしく、隊士達のことは副長に預けて近藤は上との対談に勤めている。もう何度も鷹の翼の討伐を言い渡されているが、そのたびに首を横に振って上手い具合に言いくるめている。

 鷹の翼を捕らえたくないわけではない。そうではないが、何か特別な思い入れがあるのか「まだ待ってほしい」と頭を下げるほど。

 まぁつまり、こうして鷹の翼が今も自由に人の屋敷に押し入って派手な悪戯をできるのも、近藤のおかげと言っても過言ではない。

 黒鷹にとっては宿敵。黒鷹の兄、父親的存在の夜鷹が長年争ってきた相手だから。争い続けてきた理由も聞かされていないのだけれど、死んだ夜鷹に代わって近藤を憎む。

「……と、その子が噂の新しい女の子かな?珍しく黒鷹が世話を焼いているから、皆、奥方候補だと思っているようだが」

「うちにまともな女の子が入ってきてそんなに騒ぐ?一躍有名人だね、紅ちゃん」

「お、奥方様候補の部分を全力で否定してください!私はただの、黒鷹様の小姓ですから。居候も同然なんですからっ」


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