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初仕事
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しおりを挟む集中しすぎて、時間の感覚も麻痺して外の音から耳を離してしまえば。偶然通りがかった新選組に気付かれれば、袋のネズミ。逃げ場はない。
それでも小紅は見た。棚から書物を取り出してパラパラとめくっては「違う」と戻し、また別の書物を取り出してめくっては「これじゃない」とまた戻すのを繰り返している。真剣で、どこか焦っているような様子の黒鷹を。
一体何を調べようというのか、声をかけようと手を伸ばしたら。外、遠くの方で音がした。
「黒鷹様、もう出ましょう」
小紅は黒鷹の腕を引いて蔵の外に出ると手早く錠前を元に戻し、周りを見渡す。よかった、誰もいない。
「あ、始まっちゃったかな。もっとたくさんの悪戯を仕掛けたかったけど、これ以上の長居はできない。帰るよ」
遠くで誰かが戦っている音がする。というか、高遠の怒鳴り声が聞こえる。桜鬼と高遠はちゃんと役目を果たしているようだ。
2人の役目は悪戯はもちろんのこと、もしも隊士達に見つかれば派手に立ち回って注意を引きつける。その間に黒鷹達を逃がすという役目だ。
隊士は数が多い。すぐに大人数が駆け付けてきて多勢に無勢状態になるだろうが、それで燃えるのが血気盛んな高遠と桜樹。
派手な戦闘は好きな者にやらせる。それなりに修羅場を潜り抜けてきた、確かな実力のある2人だ。そう簡単には倒されないと黒鷹は信じている。
黒鷹に信じられているからこそ、2人は黒鷹の盾として刀として、思う存分力を振るうことができる。
結局、今日のところは蔵の中で“小紅”を見つけることはできなかった。それが答えだ。それに黒鷹が調べたかったことも、わからなかったらしい。
後ろ髪惹かれる思いで蔵に背を向け、あらかじめ決めていた脱出の道をたどる。速足で、小紅がはぐれないように。そして小紅が勝手に離脱してしまわないようにしっかりと手を握って。
どんどん歩いて行って、でも足音も気配も消している。小紅も黒鷹に習って足音も気配も消すが、どんくさいことに途中で着物の裾を踏んづけて転倒。
最初に「大丈夫?落ち着いて、行くよ」と声をかけて引き立たせてからはまた口を閉ざし、出口に向けてひたすら足を動かす黒鷹。
異変に気付いていた。
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