鷹の翼

那月

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初仕事

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 笑って緊張をほぐして、小紅の肩から力が抜けたらすかさず言葉の刀を突きつける。隙がないのなら、うっかりしゃべってしまうように隙を作ればいい。

 小紅が新選組の人間なら、屯所のことは知っているのでポロッと口を滑らすと思ったのだろう。だが、小紅はそう簡単に言葉を滑らせる口を持ってはいない。

 周りを警戒しながら呆れ半分に、さりげなく蔵に行きたいと主張。

 新選組に限らず、一般的に蔵には大事なもの、秘密が隠されているものだ。当然、新選組の歴代の名簿なんかもあるだろう。

 もしも小紅が新選組ならばその名簿に小紅の名前が載っているはず。そこへあえて行きたいというのは早く身の潔白を証明したいためか、はたまた黒鷹への挑戦か。

 嘘か真か、黒鷹が言った「まだ1度も入ったことがない」という発言に素直に驚いた小紅。足を止めかけたが、黒鷹が手を引き蔵の方へと足を進める。

「入ってたら中の書物の中身、僕が全部覚えているから紅ちゃんが間者かどうかすぐにわかってるよ。偽名を使っていなければ、ね」

 手を引き前を歩いていた黒鷹が足を止め、チラッと小紅を見下ろす。口角は上がっているのに夜空色の瞳は冷たく笑っていない。

 小紅には姓がない。母親の名前すら知らないし、父親の夜鷹の姓である魅堂は黒鷹と和鷹が受け継いでいるので小紅は身を引いている。

 本当は夜鷹の血を引いているのだから小紅も魅堂の姓を名乗ればいいのに。あえてそうしないのは、“魅堂”という姓には“鷹の翼の頭領”という意味があるから。

 夜鷹が愛した家族を、小紅は大事にしたい。だからといって“夜鷹の娘”と“鷹の翼の頭領”を天秤にかけて、後者に傾くと諦める小紅もどうかと思う。

 まぁ、本人が鷹の翼の存在を知った時点で覚悟していることなのだから今更口出しはできないが。

 とにかく、小紅が“小紅”であることを証明するものは何もない。今は。小紅が何者なのかは小紅本人と、情報屋の千歳しか知らない。と、いうのが黒鷹の考え。

「なんだ、面白くないなぁ」

 残念そうに、けれど楽しそうに口元に笑みを浮かべる黒鷹は前を向き、再び歩き出す。

 小紅は目を反らさなかった。夜空色の冷たい光を放つ2つの瞳を自分の瞳に映したまま、何も言わないで見つめ続けた。

 黒鷹はどう思ったのだろう?核心を突かれてビクッと肩を震わせ怯えると思っていただろうに、まるで真逆。

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