鷹の翼

那月

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初仕事

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 貧しいから、ろくに勉学もできずに義賊の真似事をするようになったとか。そういうわけではない。

 出生なんて何も関係ない。お国のためなんてくそくらえ。自分の好きなように生きてやる。あと、子供じみたイタズラが大好きだ。それが鷹の翼。

 裕福すぎるやつらの悔しがる様が、鷹の翼を笑顔にする。手に入れたもののほんの一部が報酬。そして、そんな彼らを応援してくれる町人達の「ありがとう」が、彼らの活力。

 今の小紅にはちょっと合わないような気がするが、理解はできる。だがひそかに、イタズラは好きだ。

「そろそろなくなってきたし、米を拝借しようかな。あとは湯呑みに穴を開けて……って、紅ちゃん何やってるの?」

 持参していた竹筒数本に米を入れ、懐にしまった黒鷹は湯呑みを手に取り首をかしげる。

 視線の先の小紅はしゃがんでいて、かまどとにらめっこ。手に何か黒いものを持って黒鷹を振り返った。

「私も何かやってみようと思いまして。火薬を入れておけば火をつけた瞬間に爆発、勝手場が使えなくなって困らせることができますよね」

「火薬なんてどこから持ってきたの?そんな量の火薬なんて入れちゃったら、かまどどころかこの勝手場全体が吹き飛んじゃうよ。人が死ぬのはダメ」

「…………すみません。では、火薬ではなくこれを入れてみます。絶対、大変面白いことになりますよ」

 かまどの中にありえない量の火薬を放り込もうとした小紅の手をすかさずつかみ、黒鷹は首を横に振る。「真剣だったのか」、と青ざめている。

 代わりに小紅はあたりをキョロキョロと見渡し、手にした別の粉末をかまどの中へサァッとまいた。

 本性を現したか。ニヤッと笑った小紅と、すぐ隣の黒鷹が舞い上がったその粉末で咳き込んでしまい、慌てて同時にお互いの口を手で覆った。ピタッ。目が合う。

 それがあまりにも面白くて、焦りと驚きの入り混じった顔でピタッと止まった2人は笑う。

「不思議です。敵地に忍び込んでいるっていうのに、悪いことをしているっていうのに、こんなにも楽しいだなんて」

「誰かに気付かれやしないかってドキドキするよね。イタズラが成功した時、彼らがどんなマヌケ面をさらすのかワクワクするよ。それから、ほんの少しでも僕達が配る金を待ってる皆のことを考えるんだ」

「真っ黒いお金、新選組にもあるのですね。そんなことをしそうな人達には見えなかったのに」

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