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初仕事
2P
しおりを挟む足音も気配も消して、いつもはギャーギャーうるさい高遠ですら口をつぐんで周りを警戒しながら進む。まぁ、たまに小紅を睨みつけているが。
「じゃ、高遠と桜鬼は向こうで暴れておいで。くれぐれも殺さない、壊さないを第一に。健闘を祈ってるよ、行ってらっしゃい」
ここはどこらへんだろうか?結構奥まで誰にも見つからずに進んでいると、足を止めて桜鬼と高遠に向き直って手を振る黒鷹。
大層嬉しそうに「任せろっ」と笑う高遠と、遠くを見つめてから「黒さんと小紅ちゃんも気を付けて」と振り返った桜鬼。
2人はうなずき合うと音を立てずに廊下に足を踏み入れ、暗い屋敷の中へと姿を消していった。
そして黒鷹と小紅はさらに庭を歩き、ここは勝手場か?裏口から中に入り、食料を物色。
「うーん、去年よりイイモノ食ってんじゃないか。金でも食料でも、余ってんなら僕達に分けてくれればいいのに。ね、紅ちゃんもそう思うでしょ?」
「へっ!?あ、す、すみませんっ……」
大量の食糧を眺めながら、顔を上げずに小紅に話を振る。で、突然振られた小紅は驚いてつい声が裏返り、慌てて両手で口を覆う。
「クスクス…………今はちょっとだけマシになったけどさ。少し前まで、貧しい人達は1日1回食事できるかできないかの暮らしだったんだよ」
朝早く夜遅くまで働いて、ようやく手に入れた食料は恵んでもらった漬物の切れ端と、傷んで売り物にならない古い米が少し。
働かざる者食うべからずなんて言葉が憎たらしい時代、黒鷹は生きていた。その名残で食が細いのだ。
食が細いため、同い年の男の町人と比べれば体が細い。けれど刀の腕は確か。ごくたまに和鷹と刀の稽古をつけているのを目にするが、毎回勝つのは黒鷹。
一緒に観戦していた雪によれば和鷹は今まで1度も、黒鷹に勝ったことがないんだとか。なので刀を合わせる時は、異様に力が入っている和鷹。
黒鷹と一緒にずっと暮らしてきた割には、黒鷹よりは体ががっちりしている。あぁ、もしかしたら黒鷹は風邪気味なのかもしれない。最近、たまに咳をしている。
対する小紅は大抵1日3食はなくとも、量は少なくても必ず1日2食は食べていた。母親が、世話をしてくれた大人がよく可愛がってくれていたから。
黒鷹が言うような時代があることは小紅だって知っている。同情するしかない。気まずく「すみません」と顔をうつむかせることしかできない。
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