鷹の翼

那月

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初仕事

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 真夜中、新選組屯所前。小紅、黒鷹、桜鬼、高遠の4人は中の様子をうかがっていた。残りの4人はそれぞれ、自分の役割のために別の場所からの侵入だ。

 2人1組。鳶と猫丸は忍らしく屋根裏から、少し前に先に侵入していて安全を確保しているはずだ。和鷹と雪は裏側から、表側の4人と同時に侵入する手はずになっている。

 大きな扉に手を当て桜鬼がグッと体重をかけると、ギィッ……とゆっくり扉が開く。

 表も裏も鍵はあらかじめ鳶と猫丸が解除している。静かに足を踏み入れる黒鷹達について行けば、扉のすぐわきに倒れている男が2人。

 思わず「ヒッ!」と悲鳴が漏れそうになった小紅。なんとか、自分でバッと口を塞いで侵入報告は免れたが。高遠に、無言で「殺すぞ」と目で鋭く睨まれた。

 見張り番だろう。死んではいないようだが、すぐに目を覚ますようには見えない。ぐっすり眠っているのか?

 それぞれの役目と、大まかな作戦は小紅の頭にも叩き込まれている。これも全て作戦のうちだと頭ではわかっていても、驚いてつい声が出そうになる。

 鳶と猫丸が先に準備を整えるのは毎回、どこの屋敷に侵入する時も同じなんだそうだ。

 当然、いつものことなので新選組もわかっている。それでもまんまとやられるのは黒鷹が、先代の頭領である夜鷹から頭脳を引き継いでいるから。

 盗みに入る大まかな手順は毎回同じでも、細かなところは毎回違っていて新選組の策士でも先読みすることができない。

「これは君を試す試練だよ」

 黒鷹はそう言って、短刀を握り締める小紅の胸元を指さした。護身用の短刀がお飾りでないことを願って、どれくらい戦えるのかを試すため。

 そして小紅が新選組の密偵かどうかを黒鷹の目で見定めるため。これは牽制だ。

 精神的に弱い小紅は短刀をギュッと握って小さく「はい」と、うつむくことしかできなかった。今のところ、9割9分9厘、小紅は密偵だと思われている。

 そう思わせる言動が多く見られた。しかも、自ら暴露しかけた時もあったし。小紅は嘘が吐けないから、本当に密偵なら致命的だが。

 新選組への奇襲を決めてから今まで、黒鷹はほぼ常に小紅を手の届く場所に置いていた。今のところ、不審な動きは見られない。

 これで新選組に奇襲がバレているようなら小紅が伝えたとは考えにくくなる。この奇襲は小紅にとって大きな試練。

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