鷹の翼

那月

文字の大きさ
上 下
128 / 386
そばとうどんと油揚げ

5P

しおりを挟む

 4人の言い争いに付き合っていたら、うどんやそばは放置されたその悲しみから出汁を吸って、倍くらいに膨張するのだろう。急成長だ。

 黒鷹と和鷹、原田と永倉、店主と縮こまっている客達の視線が、静かに食事を再開した小紅に集まる。

「へーえぇ……気が弱い繊細な女の子だと思ってたけど、なかなかの大物だなぁー。どっちの女なんだよ?兄か?弟か?なぁ、どっちなんだよぅ?」

「ブフッ!ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッ!」

「僕の。僕の大事な大事な小姓なんだから、誰も、手出しは許さないよ?」

「うっ!ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッゴホッゴホッ!!?」

 小紅は吹いた。まず、先の原田の誰の女?発言にむせ込んでうどんが口から逃げ出しそうになったので慌てて、両手で押さえて背を向ける。

 次にそれに対する黒鷹の発言にさらに激しく咳き込み、店主が注いでくれた水を飲んで落ち着く。いや、そう簡単に落ち着けるはずがない。

「…………左之助、帰るぞ。何か、今すぐ帰らねぇといけねぇ気がする」

「えぇー、なんでだよぅ新八さぁん!?魅堂の兄が急にえげつない殺気出しちゃって面白――んむぐっ!」

「小紅ちゃん、だっけか?松原さんから聞いてるぜ。せっかくの食事を邪魔しちまって悪かったな。でもな、小紅ちゃんはまだ何の罪も犯してねぇ。引き返すなら今だ。隣に、一緒にいるのは許されねぇことしてるやつらだってこと、忘れるなよ?じゃあな」

 何かを悟った永倉が、小紅に絡んできた原田の口を塞いでそのまま店を出る。すれ違いざま、彼は黒鷹を冷たい目で睨んでいた。

 ふと視線を向けると、和鷹は兄の発言に「ウゲッ」とでも言いそうな顔でドン引き。

 水を飲み干して鎮火した小紅の隣に座り直した黒鷹は「迷惑をかけたね」と、店主に謝礼を渡して残りのうどんをすする。

 終わったのか?他の客達もヤレヤレと胸を撫でおろしながら元の席に戻り、食事を再開。

 和鷹は平然とうどんをすする兄と、頬を赤く染める小紅とを交互に見つめ、大きく深い溜め息を吐いてからようやく座った。が、箸を持つ手は机の上に置かれたまま動かない。

 何を考えている?永倉と原田のこと?小紅のこと?黒鷹のこと?それとも、今晩の奇襲のこと?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

池田恒興

竹井ゴールド
歴史・時代
 織田信長の乳兄弟の池田恒興の生涯の名場面だけを描く。  独断と偏見と創作、年齢不詳は都合良く解釈がかなりあります。  温かい眼で見守って下さい。  不定期掲載です。

【完結】ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~

テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。 大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく―― これは、そんな日々を綴った物語。

あの日、自遊長屋にて

灰色テッポ
歴史・時代
 幕末の江戸の片隅で、好まざる仕事をしながら暮らす相楽遼之進。彼は今日も酒臭いため息を吐いて、独り言の様に愚痴を云う。  かつては天才剣士として誇りある武士であったこの男が、生活に疲れたつまらない浪人者に成り果てたのは何時からだったか。  わたしが妻を死なせてしまった様なものだ────  貧しく苦労の絶えない浪人生活の中で、病弱だった妻を逝かせてしまった。その悔恨が相楽の胸を締め付ける。  だがせめて忘れ形見の幼い娘の前では笑顔でありたい……自遊長屋にて暮らす父と娘、二人は貧しい住人たちと共に今日も助け合いながら生きていた。  世話焼きな町娘のお花、一本気な錺り職人の夜吉、明けっ広げな棒手振の八助。他にも沢山の住人たち。  迷い苦しむときの方が多くとも、大切なものからは目を逸らしてはならないと──ただ愚直なまでの彼らに相楽は心を寄せ、彼らもまた相楽を思い遣る。  ある日、相楽の幸せを願った住人は相楽に寺子屋の師匠になってもらおうと計画するのだが……  そんな誰もが一生懸命に生きる日々のなか、相楽に思いもよらない凶事が降りかかるのであった──── ◆全24話

がむしゃら三兄弟 第三部・長尾隼人正一勝編

林 本丸
歴史・時代
がむしゃら三兄弟の最終章・第三部です。 話の連続性がございますので、まだご覧になっておられない方は、ぜひ、第一部、第二部をお読みいただいてから、この第三部をご覧になってください。 お願い申しあげます。 山路三兄弟の末弟、長尾一勝の生涯にどうぞ、お付き合いください。 (タイトルの絵は、AIで作成いたしました)

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

朱元璋

片山洋一
歴史・時代
明を建国した太祖洪武帝・朱元璋と、その妻・馬皇后の物語。 紅巾の乱から始まる動乱の中、朱元璋と馬皇后・鈴陶の波乱に満ちた物語。全二十話。

処理中です...