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一歩前で待つ
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しおりを挟む意味が分からない。黒鷹の腕の中でしばし考えを巡らせてみても、さっぱり。もしかしたら彼の顔を見れば何かわかるかもと、顔を上げてみる。
深い夜空が、そこにはあった。2つの夜空には困った顔の小紅が映っている。
滑稽。わかるのはそれだけ。やっぱり彼はニコッと柔らかく微笑むだけで、その表情からは何も読み取れない。彼は今、何を考えているのだろう?
何を思って、2人きりでここでずっとお互いの琴線に触れるような話をしているのだろう?何を思って、小紅を腕に抱きしめているのだろう?
わからない。わからないが、彼が微笑んだ瞬間、小紅は自分の顔が熱を帯びるのを感じた。
グラリ。小紅の心の奥で何かが揺れ動いたような気がした。優しい、自分だけに向けられた笑顔。温かい、お日様のような笑顔。もう忘れられない。
きっと真っ赤になっているのだろう。顔だけじゃない、触れているところがやけに熱く、心臓がドクンッドクンッと高鳴っていく。
なにせ小紅はこんな風に異性に抱きしめられて事がない。夜鷹を除いて。だが、夜鷹に抱きしめられた時に感じたのは、温かさだけ。
黒鷹に抱きしめられている今とは、全然違う。今は温かいというより、熱い。体中の血液が沸騰しているんじゃないかというくらいに熱く、今の状況の意味を考える余裕もない。
「クスクスッ……あぁ、桜鬼が惚れるわけだよね。君、本当に可愛いもん」
「かっ可愛いなどっ!というか、えっ!?わ、私、桜鬼さんに……す、す、好かれ、て……っ!!?」
「あれ、自覚なかった?最初は桜樹がその真面目さに一目惚れして、そばにいるうちに桜鬼まで惹かれていっちゃったって言っていたよ?」
お前は池の錦鯉か。そう突っ込まれそうなほど、真っ赤な顔で口をパクパク。言葉も出ないか。
「ひっ、ひとめっ……惹かれ、て……っ!?わ、私は、私など…………間違っています!!きっと何か思い違いをなさっているんです!私、行って話してきますっ」
錯乱。突然の告白、というか暴露に完全に舞い上がってしまった小紅はバッ!と黒鷹から離れ、慌てて駆け出す。
だがな小紅よ、忘れているだろう。ここは広さ1帖ほどの、周りを木の壁で囲まれた小さな墓地だぞ?
そう、興奮で目の前さえ見えなくなっていた彼女は勢い余ってゴンッ!と壁に顔をぶつけてしまった。あまりの勢いに跳ね返ってひっくり返りかけたところを、素晴らしい反射神経で彼が受け止めたが。
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