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一歩前で待つ
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しおりを挟む急に明るく、縦に開放されたその場所は。畳1帖ほどの小さな中庭のような場所で、わずかに日の光が差し込む。屋敷の中にいればこんな場所があるなんて気づかない、巧妙に計算、設計された場所。
わずかに真上から差した光が、ある石を照らし温めている。石碑だ。
「先代の頭領、魅堂夜鷹さんの……本物の墓だよ。新選組の人達はまだこの場所を知らない。君を試すつもりはないけどさ、どうしても君には来てほしかったんだ」
花が手向けられた石碑には1本のキセルが供えられていた。安物の、しかしかなり使い込まれたらしい赤と黒で彩られたキセル。
夜鷹はかなり若いうちからキセルを愛用していた。ほぼいつも手にしていたというほど酷い喫煙者だった。
「紅ちゃんが鷹の翼を、俺を訪ねに来ることは本当に、夜鷹さんから聞いていたんだ。君の正体が何なのかまでは最期まで教えてくれなかったけどね」
「…………もしも、私が新選組の密偵だったらどうするんですか?こんな大切な場所……」
「その時はその時だよ。まぁ紅ちゃんは本当に夜鷹さんの娘らしいし、もしも密偵だったとして襲撃しても、ここだけは絶対に死守しようとするでしょ?」
「………………はい」
眉根を寄せうつむく小紅を、黒鷹はフワリと抱きしめた。思い切り振り払って逃げようと思えば逃げられる。拘束する力はない。それは優しい抱擁。
優しい想いが腕から、密着しているところから伝わってくる。言葉として表すには難しすぎる、それは黒鷹の“想い”そのもの。
「僕が守る。新選組から、他の悪い奴らから。高遠や和達から。そして…………紅ちゃん自身から」
「黒鷹様……」
黒鷹はなぜこんなにも小紅に執着するのか?聞いてもきっと教えてはくれない、ニコッと微笑まれるだけだろう。
温かく優しい、その心地よさについ両腕が持ち上がる。そして彼の背中に回される。しかし触れる直前、小紅はハッと手を下ろした。
「抱きしめ返してはくれないんだね、残念だよ」
「申し訳ありません。私は、そういう立場にありません。ただの小姓に過ぎないのです。だから黒鷹様も、どうか私なんかを特別扱いはなさらないでください」
「嫌だね。紅ちゃんは、色んな意味で特別だ。良くも悪くもね。だから良くも悪くも僕は、僕達は君を特別扱いする」
即答か。小紅を抱きしめる腕は離してくれないし、一体何を考えているのやら。
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