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一歩前で待つ
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しおりを挟む「怪しさ抜群なんですね、私。ここに来て間もないのにもう………………隠しきれないのかもしれない……」
小紅が抱えているものに、黒鷹は薄々気づいている。鳶と桜鬼は何となくヤバいことだと感じているようだし、千歳は完全に知っている。
このまま黒鷹の小姓として過ごしていけば、小紅の性格からして隠し通すことは難しいだろう。
何せ確信を突かれればすぐに顔に、態度に出てしまう。相手が和鷹ならどんどん責められて、全て自白してしまいかねない。
ヒヤリとした恐怖が、小さく震える小紅を襲う。すると、鳶が見えない口を開いた。
「俺は…………聞き出せと命は受けていない。だから、今は聞かない。ここにいたいなら、いればいい」
「え?」
「それが頭領の思い。頭領が追い出せ、殺せと言えば追い出すし殺す。だが……今はただ…………見守っていろ、と」
寝返りを打つ猫丸に布団をかけ直す鳶のまなざしは優しい。良い兄だ。
猫丸の額をそっと撫でる鳶の声は小紅に向けられ、その優しさに早鐘を打っていた心臓が少しずつ落ち着きを取り戻す。
鷹の翼では頭領である黒鷹が全て。小紅を生かすも殺すも、黒鷹次第というわけだ。
その黒鷹が鳶に――他の仲間達に小紅を「見守っていろ」と命じている。命じることで小紅を、守っているということなのか?
その命令にどんな意味があるのかはわからないが、何にせよ、小紅は胸を押さえた。うつむき、肩を震わせる。
「黒鷹様、あなたは……」
「俺達はまだ、小紅さんのはるか前にいる。これからの態度次第で距離は変わる。縮んだり、離れたり……」
「これから、ですか。私は――」
「俺は………………あくまで俺個人的にだが。打ち明けてもいいと思う。1番信頼のおける者に、1人だけでも打ち明ければ、スッキリする……はず」
そういえば鳶はもう手紙を使わなくなった。人と話をするのが極端に苦手だったはずなのに、眠っている猫丸を気遣って手紙を書いていたのに。
書くのが面倒になってしまったのか?それもあるだろうがきっと、鳶は鳶なりに小紅と向き合ってみようと思ったのだろう。
直接話をすることで向き合い、小紅という少女を知る。これが本当に体で向き合っていたらなおよかったのだが、鳶はそこまでできなかったようだ。
ずっと猫丸の方を向いて、小紅の方にはチラリチラリとしか目を向けていなかった。
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